本記事では「iPS細胞から作った網膜色素上皮細胞移植の移植の歴史」を解説した記事を読んで学んだことをアウトプットします。
概要は下記の通り
世界初のiPS細胞から作られた細胞の移植に取り組んだ、高橋政代先生の網膜色素上皮細胞の移植について、
細胞を移植する再生医療に効果があるかどうか、それなりに注目されている分野だと思います。
まだまだ、はっきりとした有効性は示されていませんが、
その段階に行くまでがいかに大変なのか、研究成果を社会に実装するにはどれだけ大変なのかが強く語られていました。
研究成果を社会実装して稼ぐという人、企業は多いけれど、どれだけの苦労を伴わないといけないのかを思い知らされる記事でした。
iPS細胞を用いた再生医療について
2007年にヒトiPS細胞が作られました。かなり大きなニュースになりましたね。
iPS細胞を網膜に応用する時系列は下記の通り
2013年〜2015年に、世界で初めての自家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞(iPSC-RPE)シート移植の臨床研究が行われました。
(※iPSC-RPE:Human iPSC-derived Retinal Pigment Epithelium Cellsの略)
2017年〜2019年に、HLA適合他家iPSC-RPE細胞懸濁液の臨床研究が行われたそうです。
(※HLA適合:白血球の抗原が一致していて、免疫の拒絶を受けにくくなる)
この間に日本では網膜以外に、
- パーキンソン病に対する細胞移植
- 心筋シート移植
- 血小板の移植
の治験、臨床研究が行われているそうです。
その1 自家iPSC-RPEシート移植
用語解説
- 網膜色素上皮細胞とは?
網膜の表面を覆う層を形成する細胞。物質交換やバリア機能の役割を持っている。 - 細胞シートとは?
温度を用いて細胞を剥離する特殊な培養皿を使って、細胞をシート状に加工したもの。
世界初の臨床研究
2012年世界初のiPS細胞を用いた臨床研究とのことです。
自家移植の条件として下記の非常に厳しいものが要求されていたそうです。
- 臨床に使える品質のiPS細胞をどの症例からも作製できること
- ほぼ100%の純度で安定な成熟したiPSC-RPEを必ず作製できること
どのように攻略したかというと
- ヒトES細胞で培われた製造方法の改良
- 科学的な検証に加え、再生医療新法の方向性・動向を把握しながら臨床試験の方向性の決定
を行うことで、最終的に細胞のリスクをほぼゼロにしたそうです。
どうやってリスクをゼロと判断した?
そもそもどうやってリスクがないことを説得できたのでしょうか?
それは、過去の手術の情報の蓄積を利用したそうです。
- 網膜剥離した時に飛び散ったRPEが眼球内でどのような影響を与えるのか
- 眼球がどの程度の侵襲に耐えて回復できるのか
というようなこれまでの情報に基づいて、どこまでが安全なのかの線引きを行なったらしいです。
その2 HLA適合他家iPSC-RPE懸濁液移植
そもそもなぜ1回目の時に自家の細胞シートから始めたのでしょうか。
それは、患者の満足度を最優先し、科学的に最高の治療にしようとしたためだそうです。
しかし、費用と時間がかかりすぎることが欠点でした。
そこで他家移植でなんとかできないかと考えた結果、
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の細胞ストックのHLA6座ホモのiPS細胞(免疫拒絶を受けにくい細胞)を利用することとなったそうです。
なぜ細胞シート技術からただの細胞懸濁液になったのかについては、
基礎的な治療技術(抗VEGF薬)が進んだこともあり、懸濁液を注入して目の中でシート状にすることができるようになったためだそうです。
これにより、手術侵襲が少なく、安全性が高くなったとのこと。
臨床試験の結果では、
- ほとんど拒絶反応が起きなかった
- 移植した細胞がシート状になって患部を覆っていた例も見られた
とのことで、なかなか良さそうな結果だったそうです。
その一方で問題も全くなかったわけではなく、
- 生着部位のコントロールが難しい
- 全霊で、注入した細胞の逆流による黄斑上膜の形成があり、切除を行なった
ことがあり、改善することで次の臨床研究に向かったそうです。
その3 効果検証
これまでの臨床研究によって、自家、他家と細胞の安全性を確認することができたので、次の臨床研究では症例の選択や効果判定法の検討を行うとのことです。
- ちゃんと効果があるのか?
- どんな基準で効果があると判断するのか?
という課題に取り組んでいくそうです。
思ったこととか考えたこととか
思ったこと
研究成果を社会実装するためのに必要な労力が膨大すぎてびっくりしました。
良い雑誌に論文が通ったからといって、そのまま社会の役に立つものができるとは限らないということですね。
特に医療や薬は安全性が非常に重要なので、少しでも悪影響があるなら厳しい状況になるとは聞いていました。
治療効果だけでなく、安全性についてかなりシビアに取り組む必要があるとのことで、
2013年に初めての臨床研究が始まってもう7年以上が経過するけれども、そこまではずっと安全性の評価を行なっていたのは改めてすごいですね。
効果検証についてはこれからとのことで、iPS細胞を使った再生医療の実用化は本当に安全性が重要視されていますね。
考えたこと
前記事のスタンフォード大学から学ぶ起業家育成についてでもアウトプットしましたが、日本でも、研究成果を社会実装するためにベンチャー立ち上げの流れがきています。
再生医療分野でも、国の大型研究費なんかでは、ベンチャーの立ち上げまでを要求するものがあります。
しかし、本記事でアウトプットしたように、再生医療においては、シビアな安全性の評価を行なった上で効果検証をするのに7年もの時間とお金を使っています。
これを体力のないベンチャーに求めても無理ではないか?と考えます。
ベンチャーを作るだけ作らせて、「後はなんとかしてね」という流れは少なからずあると思います。
役人にとっては、自分が目をつけた研究者に研究費を投資して、ベンチャー立ち上げまでをやったという「成果」が大事ということもあるらしいですね。(参考:BioMedサーカス.com、教授と僕の人生相談所、ポスドク問題はオワコン)この記事は一読の価値あり。
そもそも元から本気で社会実装する気がない人もいるのかもしれません。
全部が全部そうとは思わないけれど、やることだけが目的となっている人がいる中で、本気で社会実装するのは、技術的にも、お金的にも、時間的にもハードルが高いと感じました。
話がそれましたが、日本が誇る最高の研究者でも、iPS細胞を使った再生医療はまだ達成できていません。
「研究成果を社会に還元する」そのための方法の一つとして社会実装があるけれど、いうのは簡単でも実行するのは技術・お金・時間をどれだけ投入するかを見極めれる能力と、実行する相当の覚悟が必要だと考えます。
研究を世に還元するための大変さを痛感する記事でした。
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