大学の研究費として科研費をはじめ様々なものがあります。
基本的には競争的資金と言われていて、書類や面接を通して限られた資金を奪い合うというような仕組みになっています。
そして、最近は研究費について色々と物議を醸しています。
その物議の中心になるのはトップダウン型研究費というものが考えられます。
なぜなら、国の研究費の予算は約1兆3000億円あるこのうち1兆円以上がトップダウン型研究費となっているそうです。
参考
府省庁・国立研究開発法人からのトップダウン型の研究費、マイナビニュース
なぜこの研究費が物議を醸しているのかという考察を、現役の大学研究員の立場として日々経験させられる事からアウトプットしていきます。
研究費の種類
4つの研究費
大学で研究を行うための資金として、
・基礎研究
科研費、財団からの助成金
・応用研究
トップダウン型研究費、企業との共同研究
という大きく分けて4つの研究費が存在しています。
科研費の勝負
研究者として生きていくためには科研費という、国が分配する基礎研究に使用するためのお金をどれだけ取ってきたかと言うことが評価項目の一つになっています。
その中で、有名なのが科研費(科学研究費補助金)というもので、毎年このお金をめぐって、熾烈な争いが起きています。
企業との共同研究
上記で示したように科研費を取ることができなくても、財団からの助成金もあるので、そちらの方も狙って競争が起きているそうです。
助成金もダメだった時の手段として、企業との共同研究があります。
ものを作るにあたって、基礎研究は重要なのですが、企業ではそこに割く人、時間、お金がありません。
効率のいい方法として、すでに基礎研究を行なっている大学と手を組みます。この時に、企業は大学の研究室に研究者的にはびっくりするぐらいのお金を出します。このお金を研究費として運用します。
ちなみに、ここは結構深い闇が存在するので、別の記事でアウトプットしていこうと思います。
実用化に向けた研究費
トップダウン型研究費
上記の4つの研究費の中で特に特殊なのが、トップダウン型の研究費になります。本記事での主役です。
これは、国がテーマを定め、担当してくれる研究者を募集するという形になっています。
テーマとしては、国が発展させてほしいと考えている分野が多いですね。現在のところ、バイオの世界では、ゲノム編集、iPS細胞などがやはり多いですね。
なぜ、この研究費が物議をしてしまうのか、その理由は3つが考えられます。
- 研究の流行を作る
- 基礎研究に注力できなくなる
- 犠牲となる人が出てくる
詳しく見ていきましょう。
研究の流行を作る
国が推進したいテーマを決めるということは、要するに流行を作ることになります。と言うことは、研究費を得るための効率的な手段として流行に乗るということになります。
こうなると、本来は自分の好奇心に基づいて行われることによって発展してきた大学の研究の世界としては、なかなか歪んだ風景になります。
目に見えて問題なのは、研究費を取るために流行に乗った申請書を書いて、お金をもらった途端申請書を無視して、自身の好奇心に基づいた研究をするという詐欺みたいなことも起こっていることです。
基礎研究に注力できなくなる
このトップダウン型研究費を獲得するためには、主導する研究者が一緒に研究を進めるための仲間(研究者、企業)を集めなければいけません。そして、仲間たちをまとめ、3-5年の間に結果を出さなければいけません。これは相当しんどいと思います。基礎研究を進行する余力はほとんどなくなってしまいます。
でも、大学で研究者として大成するにはこの研究費を取らなければいけません。なぜなら、この研究費を取れないと研究者としての威厳を得ることができないからです。今、大学の上層部の人間は、そのようなことをしてきた人たちで、評価の基準がトップダウン型の研究費を取ってこれるような人物かどうかということがあるからです。
大学自身で歪む方向に持って行ってるのは笑えませんね。
犠牲となる人が出てくる
トップダウン型研究費の目的としてとして、研究成果を世の中に出してほしいということがあります。
全てがそうではありませんが、その中で最も都合が良い形はそのプロジェクトでベンチャー企業を作らせることです。ベンチャー企業として研究成果を売ることによって世の中に出すことができるというわけです。(一応名目上は)
しかし、大学の技術は最先端すぎて、世間がついていけていません。つまり、ベンチャー企業としてものを売っても市場がないので売れないのが現状です。
つまり、プロジェクトによって、製品やベンチャー企業を作るだけ作らされてプロジェクトが終わったら自立しなければなりません。当たり前ですが、どこか酷さを感じますね。
ベンチャー企業で働かされることになった人にはたまったものではないように感じます。完全にプロジェクトの犠牲者ですよね。
トップダウン型研究費を出す側の都合
トップダウン型の研究費として、大きなお金をもらえるのはありがたいが、なぜ問題が起きてしまうのでしょうか。
それは、お金を出す「役人の業績」が原因として考えられます。多額のお金を渡すということは、それなりの結果を残す必要があります。ここで、「研究者の業績」と「役人の業績」の齟齬が起こるのではないでしょうか。
- 「研究者の業績」
研究費を取る、論文を書く - 「役人の業績」
誰に研究費を渡せたか、どのような結果が出たのか(ベストはベンチャー企業まで作らせた)
になります。
完全に目的が一致していませんよね。
役人も結果を出して昇進するのに必死です。研究者も生き残るのに必死です。しかし利害関係が一致してないので、科学のあり方が歪んでいるのではないでしょうか。
役人としては、担当した研究者に基礎研究を減らさせ、実用化に注力させ、市場がないところにベンチャーを作らせ(あるいは担当企業で製品化)、何人かの人を人柱的な存在にさせ、そうしなければ途中でプロジェクト打ち切りという手段を使わないと役人としての結果が出ません。
このような環境がトップダウンの現状ではないかと感じます。
正直健全だとはなかなか思えないですね。
大学の研究費のあり方
今回はトップダウン型研究費の問題についてアウトプットしました。正直、この研究費は大学の研究のあり方を歪めている気がします。
確かに大学の研究成果を世の中に還元するのはこの上なく重要です。
しかしそれは本当に大学の研究者が主導してやらなければいけないことなのでしょうか?
大学での研究の命題は、科学の基盤を頑丈にすることだと考えています。
そして、社会実装して世の中を変えるのは企業の命題です。
しかし、近年トップダウン型研究費によって本記事で述べたように、この役割が歪められているように感じることが多々あります。科学を真っ当なものにするのであれば、現在の研究費の配分について、基礎とトップダウン型のバランスを見直す必要があるように感じます。
おそらく、この仕組みは変わらないので、今のところ歪みを抱えたまま、適応していくしか対応はできないでしょう。
あまり良い方向に向かわないような気がしかしないので、科学の行く末が不安になります。
ちなみに、本気で社会実装するなら富士フィルムぐらいやるべきだと思います。
富士フイルムとアクセリード社 iPS細胞用いた創薬支援分野で協業開始、ミクスOnline、2019年7月11日
https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=67789
このような記事をはじめ、最近富士フィルムが再生医療や創薬関連での記事が非常に多く報告されています。
富士フィルムの戦略としては、必要な基盤技術を買収で確保し、基盤を整えているようです。そして、基盤を固めたら、応用するためにその手のプロと協業するという流れ担っています。
市場がないところに、市場を作る戦略として非常に有効そうな手であると感じます。
ここには、企業だけでなく、大学の研究も非常に重要になっているので、トップダウン型の研究費よりも、社会実装に対する大学と企業のバランスは良さそうです。
あくまで、外の人間が見ただけの感想ですが。
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