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【大学vs企業】Natureが調べた研究者満足度アンケートのメモ

Science Memo
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本記事では「大学と企業での研究者の満足度」について、
Natureが世界の大学と企業に所属する研究者に行なったアンケートについてまとめた記事について学んだことをアウトプットします。

昨今の日本の大学事情は、ポスト削減や選択と集中による過酷な環境の中で生きなければいけません。
そんな背景から、大学に残るか企業に就職するかは研究者にとってかなり大きな分岐点になります。
中には、大学で働きたいなら海外のほうがいいよという意見も耳にします。

この問題は日本だけのものなのでしょうか?

実はNatureは定期的に大学と企業に所属する研究者に対して満足度調査をしているそうで、2021年の最新の調査についての記事がありました。

アンケート結果によると、大学と企業の研究環境の満足度(仕事環境、キャリアの見通し、給料など)は、数年前より大学側が低下しているようで、企業に人が流れているようです。

研究者として働くなら大学 or 企業問題は世界共通の問題になっているようです。

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研究者が抱える進路の悩み

研究者として大学で働こうと考えたとき、
博士号を取得し、ポスドクを経験するだけでもかなり大変な思いをしますが、そこからさらに

  • 研究の自由さ
  • 雇用の安定性
  • 収入
  • 将来の見通し

などを天秤にかけて大学に残るか、企業に就職するかを決めることは研究者にとってかなり大きな分岐点になります。

過去記事でアウトプットした「アカデミアを離れてみたら」はアカデミアの外での博士の生き様が綴られた良書【博士号の歩き方】でも、上記の悩みについて大学と企業どちらで働くかについて葛藤を抱いている人が多かった印象です。

かくいう自分も、学生の頃は小さい頃から抱いていた大学で研究者になりたいという夢を叶えるために、後先考えず博士課程にまで行き、ポスドクも少し経験して、進路についてこれから数十年どうやって生きていこうかと考えたとき、上記の悩みにぶち当たりました。

自分の周りの人も同じ悩みを抱えて進路を決めていました。

昨今のニュースでは研究者の雇い止めや研究費の不足といった、日本の大学の雇用環境の悪化がかなり深刻になってきており、上記の悩みもより一層大きなものになってきているように感じます。

そんな研究者の大きな分岐点の選択の参考になる、Natureの大学と企業の満足度調査によると、
世界的に見ても大学の雇用環境は日本と同じく悪化しているようで満足度は数年前と比較して低下しているとのことです。

過去記事の「Natureが調べた世界のポスドクの実態についてのメモ【Nature初のポスドクアンケート】」でも、ポスドク問題は日本だけでなく世界共通のものでした。

日本の環境は悪くなる一方で、海外はいいぞという意見も耳にしますが、大学と企業の研究者の進路選択についても世界的に見るとポスドク問題と同様に共通問題になってきているようです。

Natureの研究者満足アンケート

どんなアンケートなのか?

世界の研究者の3,200人以上に対して、

  • 仕事環境
  • キャリアの見通し
  • 給料       など

についてアンケートを実施したとのこと。

回答者は大学所属の研究者は全体の2/3で、それ以外は企業、政府、非営利団体所属の研究者で構成されているそうです。
また、80%以上はPhD取得者で、男女比はほぼ同じとのこと。

仕事環境への満足度

ハラスメントの有無

職場で差別、ハラスメント、いじめは

  • 大学 30%
  • 企業 15%

の人が受けていると感じている。

職場でのハラスメントについてはどちらも同じぐらいだと思っていましたが、大学のほうが企業の倍ぐらい多いとのこと。

アカデミアは企業よりも閉じた文化だからでしょうか?
研究室などの組織のトップの力が強すぎたり、その下についている人の力が弱いということも考えられそうです。

ハラスメントを感じても他にポストがないから離れることができないという理由もありそうです。
そもそも任期があったり、その環境にいる時間が短いため、ハラスメントと戦っている時間がありません。
次の場所が決まるまで耐えるしかないという思考になってしまうのでしょう。

またアンケートからは、次の就職先について上司から文句も言われることもあるとのことで、割とよく目にしてたり聞いたりしていることは世界的にもあるのだなと感じました。

キャリアの見通し

キャリアに対してポジティブに感じる人

  • 大学 42%
  • 企業 64%

※2016年の調査よりも大きく変わった部分。
 (2016年 大学65%、企業63%)

アンケートでは、モチベーションやスキルがどれだけあっても、大学でのポジションを得るためにメンタルヘルスを犠牲にして競争し続けないといけない理由から、研究に幻滅したという人もいるとのこと。

キャリアの見通しについては、自分自身も大学を離れて企業に就職してから、見通しについては気が楽になったと感じます。

任期制度で成果を出すための刺激をしたり、様々な環境で経験を積んだりなどの良い部分もありますが、そもそもそれはポストが豊富にあって自由に移動できる環境だから成り立つものだと思います。

一度でも失敗したら復帰不可能なほど大きなプレッシャーと少ないポストの激しい椅子取り合戦はただ人を苦しめるだけですね。

任期なしと任期ありのポジションでのキャリアの見通しへのポジティブさの項目では、

  • 53% 任期なし
  • 36% 任期あり

と概ね予想通りとなっているようです。

任期ありでは、数年間という短い間に成果、研究費の獲得、次のポジション探しをするために文字通り死ぬ気で追い込まないといけません。
それこそ研究に幻滅する人が出るほど、かなりのプレッシャーになるのでしょう。
また、短期間で成果を出さないといけないため、挑戦することがどんどん小さくならざるを得ないのも相当ストレスだと思います。

日本だけでなく世界的にも大学へまわるお金は減っているそうで、大学での人件費のコストカットは世界的に行われているとのことです。
パンデミックでのコストカットも問題視されているとのことです。

日本でもポストの削減などの徐々に進んでいるものから、理化学研究所の研究者雇い止めなどの大きなものが物議を醸していますね。

アンケート内の意見では、中国も研究者をたくさん集めていたりして、良いと思われていますが、思っているよりもパーマネントの職は少ないそうで、任期に追われながら研究に取り組むことが多いそうです。
海外からやってきた研究者たちにとっては、長期的に何かを取り組む環境とは言い難いようです。

給料の満足度

年間150,000ドル以上稼ぐ人

  • 大学 5%
  • 企業 17%

企業の方が大学よりも給料が高い人が多い傾向にあるとのこと

給料に対する満足度

  • 大学 50%未満
  • 企業 62%

給料カットへの苦情や文句

  • 大学 44%
  • 企業 23%

お金がすべてではないけれど、生きるためにはお金が必要です。

特に大学のような限られたポストの中で、いつ任期が切れるかもわからない状況だと、お金はかなり深刻な問題になると思います。
研究にフルコミットしても成果が出せず、職を失ったとしても貯金があれば次の職を見つけるまでの精神的な安定感は大きいと思います。
そもそも、生活の心配がないくらいお金がないと研究に集中することも難しいですが。

資本主義的になかなか利益につながらない大学では、確かに高い給料を得ることは難しいから仕方ないかもしれません。
しかし、大学で研究したい人にとっては給料は企業よりも低くても、安定した職があれば問題にはならないような気がします。
給料が高くないのに、さらに安定しなくなってきているからより問題になっているのかもしれません。

これについても日本の大学の問題だと思っていましたが、世界的に見ても同じような傾向があるようです。

企業のほうが給料カットに対する苦情や文句が少ないのは、転職が割と自由に聞くからだと思います。
給料がカットされて納得いかなかったら転職すればいいですし、カットしたら優秀な人が転職してしまうリスクが増すのでなかなかできないということがあるのでしょう。

一方で、大学は給料がカットされても他に好条件なポストはほぼ見つからないから受け入れるしかないですし、大学もそれをわかっているだろうし、人が減れば人件費削減できるから給料をカットしやすい土壌というのもあるのかもしれません。

研究者として働くなら企業と大学どっち?

これらのアンケート結果を見ていると、2022年の段階では研究者として働くならば、企業で働いたほうが身体的にも精神面的にも健康に生きることができる可能性が高そうに思いました。

5年ほど前は同じ程度の満足度だった部分も、今では企業のほうが上回ってしまっています。
日本の大学の研究環境を嘆き、海外は良いぞという意見を耳にしますが、世界的に見ると海外も日本と同じように大学の職場環境が悪化しているようです。

それよりも悲惨と言われる日本は本当に大変なことになっているのでしょう。

アンケート的には企業が良いと感じる人が多かったけれど、企業が必ずしもいいとは限らないことには注意でしょう。

大学から企業に移った研究者の意見として、企業の意思決定の遅さや社内政治に対して不満を感じる人も多いとのことです。
これは自分も企業で研究をしていてそう感じることがあります。

研究は新規性が大事でスピード勝負なところがありますが、承認が遅く後手後手に回ることが多くてフラストレーションに感じます。
このアンケートの意見でもあるように、割と意思決定がスピーディーと言われている海外でもそう感じる人がいるとのことで、日本の企業は更にそう感じる人が多いのではないでしょうか。

また、利益につながらないけれど、解決すべき課題(希少疾患の治療など)など、大学でしかできないこともたくさんあり、必ずしも企業が良いというわけではありません。

ただ、熱い気持ちを持って大学でそういった課題に取り組みたいと思う人たちを萎えさせてしまうような環境になっていることは解決すべき重要な問題です。

世の中に出ている科学技術の恩恵は確かに企業が社会実装に貢献していますが、その根幹部分は大学で明らかにされた原理原則などの基礎があってこそなので、企業に流れる状況は食い止めないと発展が止まってしまうかもしれません。

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まとめ

以上、「大学と企業での研究者の満足度」について、
Natureが世界の大学と企業に所属する研究者に行なったアンケートから学んだことのアウトプットでした。

研究者として働くなら大学か企業かについての悩みは世界共通のようです。
また、大学の環境が悪くなっている流れは日本だけかと思っていましたが、世界的に見ても同じ傾向があるとのことが学びでした。

大学は科学技術発展のためにも絶対に欠かすことができない存在なので、そこで働く人達が気持ちよく能力を発揮できるような環境になると良いと思います。

最近増えつつある第三のような選択肢の起業した人たちの満足度についても気になるところです。

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