研究室に所属して研究をすると、研究テーマというものが割り振られます。
その中で特殊なものの一つが「企業との共同研究」だと思います。
「企業と共同研究してる!」って言うと結構かっこいい響がしますよね?
今回は、実際に企業との共同研究というテーマはどんなもんなの?ということについて経験からアウトプットしていきます。
結論から言うと、「ハイリスクな割にリターンは小さい」という感じでしょうか。
※あくまで私の経験談ですが。
とは言っても、「企業の研究の進め方を知る機会」や「将来の就職にもつながる」ので、企業に進みたいと思う人にとってはチャンスなのは間違いないですし、自分の研究室を持ちたい人にとっても企業との付き合い方を学ぶことができるチャンスなので、いかに自身で小さなリターンを大きくできるかといことが重要です。
この考察の信ぴょう性としては、共同研究に携わった経験が3テーマ、特許1つ、論文2つを実績として出している人の考察であるということを参考にしていただければ良いと思います。一応n=3です。
企業との共同研究の進め方
研究テーマの決定
研究のテーマは基本的には大学の研究室の技術を使って、「企業が欲しいものを開発する」になります。
普通の研究のように、「現象の解明」や「まだ応用するには早すぎる新規のモノ」というテーマとはだいぶ毛色の違うものになります。
企業は綺麗汚い別として、「お金を儲けること」が目的になります。研究する理由としても、将来的に儲ける何か新しいものを作ると言うことが一番にあると思います。
なので、基礎研究が大好きという人とはなかなか向かないかもしれません。
逆に、基礎研究よりも、開発に携わりたいという人には向くかもしれません。
ディスカッション
研究のディスカッションについては、教授、研究担当者、企業との三者で行うことが多いです。とはいっても、教授の方針次第でしょうか。
結果だけ教授に渡して、教授が企業と二者でディスカッションすることもあります。
注意なのが、教授と企業の意見が食い違うことを結構見てきました。と言うのも、教授は基礎的な科学を目的としていて、企業は開発の方を目的としています。
企業の人の意見を一方的に聞いているだけだと、ただの受託研究になってしまいます。教授もプライドや立場があるので、主導しようとするとどうしても基礎的な方が中心になってしまいます。
という感じで対立が起きるので、研究担当者としてはなかなか板挟みで辛い時があります。
このように、普通に研究している時とはまた違った大変さがあります。
結果のまとめ
企業との共同研究はまずはじめに特許になります。
特許の性質上、学会や論文で発表してしまうと、新規性が消えてしまうというものがあります。(特例で認められる時はありますが、縛りがきついので企業側はあまり好みません)
特許が無事にできると、晴れて、学会や論文という形にできます。
学生にはあまり関係ありませんが、特許を出すにはお金を払わないといけません。
しかし、大学側はそれを払うお金をあまり所持していないので、企業が払うことが多いです。
しかし、特許の割合は大学も数割持つことになるので、企業としてはあまり良く思いません。
ここでも結構揉め事が起きるタネになります。
また、例外的に学会を優先するような企業もあります。
上手いこと特許の内容を避けたり、特許化が難しくても学術的には意味があるような判断をした時ですね。
私の実績の特許1・論文2という噛み合っていない数字がまさにこのパターンでした。
以上が企業との共同研究の流れになります。
次はメリット・デメリットを見ていきましょう。
デメリット
まずは企業と共同研究することのデメリットについてです。
デメリットは5つあります。
- 責任感を感じる
- 特許の都合で学会に出られない
- 卒業・修了発表は特許の都合で一部データを伏せる
- 企業の労働力として使われる
- 結果を持っていかれる
詳しく見ていきましょう。
責任感を感じる
通常の研究テーマであれば、正直研究がうまく進まなくても、自分が困るだけです。
しかし企業との共同研究はうまくいかないと困るのは自分だけではありません。
企業からとてもたくさんのお金を出したり、人を出したりするので、企業的にはなんとか結果を残したいです。
そのような圧力がとてもかかるので、真面目で責任感が強い人ほどうまくいかなかった時に「申し訳ない」と言うような気持ちが芽生えてしまします。
自分としても、実験がうまくいかなくて悲しいし、責任感も感じてしまって、結構心が病みます。
(気にならない人は気にならないのですがね)
とはいっても、学生は指導を受ける立場であり、企業との共同研究であっても教授が管理・指導する義務はあるので、そこまで深く受け止める必要もないかと思います。
責任は教授が持つので、思いっきり研究に取り組んで見ようと思った方が意外とうまく行くかもしれません。そして、失敗してもうまくいかなくても、それを解決した時・乗り越えた時大きく成長しますし、企業側の評価も大きくなると思います。
研究は基本は失敗続きなので、失敗からどうするかと言うところが醍醐味です。
特許の都合で学会に出られない
前述したように、特許は学会や論文として世に発表してしまうと、新規性が失われてしまうことにより、特許が完成するまで学会発表を行うことができません。
正確には学会側などが定める特例を使って、発表をしても新規性を消失しない手続きをすることで特許として出すことができます。
しかし、特許に大きな制限がかかってしまうそうで、企業はとても嫌がります。
せっかく学会発表できるほど、データが出ていても学会に出ることができなければ、業績を稼ぐことができません。
就職活動や奨学金免除を狙う人にとってはとても困ります。
これの対策は、全力で結果を出して特許化を急ぐという方法が考えられますが、研究が狙い通りに行くことはほとんどないので、あまり当てになりません。
と言うことは、もう一つ、企業が関与しない実験を行うという方法があります。
実験量が2倍になるのできついですが、仕方がありません。
なのでなかなか大きなデメリットではないかと思います。
卒業・修了発表は特許の都合で一部データを伏せる
特許が完成するまでは内容を公にすることはできません。
それは学会発表や論文だけでなく、卒業・修了発表でも同様です。
しかし、これを行わなければ卒業・修了をすることができません。
ではどうするか?
方法は2つです
- 別室で同意書を書いた教授陣のみ参加して非公開形式で発表する。
- 特許に関与する技術をぼかす
(例えば、薬の開発の場合は、薬の構造は隠す。などの方法を行います。)
気にならない人はいいのですが、ディスカッションのしようがないので、なんとも不完全燃焼に陥りやすいです。
とは言っても、気にならない人はデメリットですらないですね。
企業の労働力として使われる
これは結構辛いと思います。
企業の人と一緒に実験を行うときなんか、その担当者によりますが、給料分の時間・質でしか働くことをしません。
具体的に言うと、研究が難航して夜遅くまでもつれ込むとなった際に、定時だからといってあとを押し付けて帰ってしまうことがあったりします。
他には、解決しなければならない課題があったとしても、夜遅くや土日を返上してでも考えて、解決するのは、企業の担当者ではなく、学生の仕事になることがあります。
なぜなら、企業の担当者はその時間は仕事の時間ではないから。
全ての人がそうではありませんが、上記のような人は実在しました。
まぁ企業の人も望んでその仕事をしている訳ではないので、モチベーションが低い・無いというのは仕方無いことなのかもしれません。
実際にこのような人と共に仕事をするとかなり心に闇を抱えることになります。
また、1人で行うことになっても企業は無給で長く働いてくれる人材としか捉えないこともあるので、こういう場合もなかなかきついです。
こうなった時は、相談できる人がいたら相談した方が良いと思います。
ちなみに、教授はよほどの人格者出ない限りあまり当てにできません。
(教授は基本的には学生を追い込むことの方が多いので…)
荏原製作所、研究所解体も特許出願4.5倍、日経ビジネス。2019年7月10日
このようなニュースがありました。
一見、企業が大学と協力することで安く成果をあげることができるようになったという美談のように書かれています。
しかし、よく考えてください。大学に支払う金額は安いのですが、人件費などはどうしているのでしょうか?
大学の研究室に属する学生ですね。
研究室の教授としては、共同研究している実績と名目が欲しいです。
そして、企業は安く研究をして欲しい。この意見が一致した結果被害を被るのが学生です。
本来はその研究は企業の人が給料をもらいながらやる仕事なのですが、それを学生にやらせることによって人件費をカットしているということになります。
確かに勉強になるという意見もありますが、ここで解説するように企業との共同研究は、デメリットの方が多いです。
果たして学生にとって良いことなのでしょうか。
しっかり考える必要がありそうですね。
結果を持っていかれる
これが最も心が折れそうになるデメリットです。
上記の労働力として使われた時に起こる確率が高いのですが、めちゃくちゃ頑張って結果を出しても、しれっと結果を企業の他の技術で使ったり、学会発表ができるようになっても第一著者を持っていかれてしまうことがあります。
企業側も社内で業績が必要なので、そのようなことが起きます。
そうそうありませんが、実際に経験して心が折れそうになりました。
もう二度とこことは関わらないようにしようと思ったぐらいですね。
研究への貢献度の質や量について大小があっても、企業の研究者は少しでも研究に携わっていますし、そもそもテーマもお金も企業が出しているようなものなのでとっても難しい問題です。
企業の良心にかかっている部分が大きいので対策のしようがありません。
ここは教授に相談してみるしか無いでしょうね。
メリット
次はメリットを見ていきましょう。
企業との共同研究のメリットは2つあります。
- 特許に名前が載る
- 業績を上げれば就職先になることも
内容を見ていきましょう!
特許に名前が載る
無事に研究がある程度達成された際には前述したように、まず特許としてまとめます。
この時に、貢献度10%ぐらいには入れてもらえるのではないでしょうか。
(特許に関わる人数とかにもよりますが)
特許に名前が載ることの具体的なメリットとして、いくらかお金がもらうことがあります。
とはいっても、貢献度もあまり高くないのでほんの少しですが。
学生にとっての一番のメリットは、業績として扱うことができるので、奨学金免除の足がかりになります。
あとは、特許に名前が入っている人はなかなかいないので自慢できますね!(メリットと感じるかは人それぞれですが)
業績を上げれば就職先になることも。
企業との最も大きなメリットとして、研究能力を企業の人に認められれば、就職先になることがあります。
いかに、「この人が欲しい!」と思ってもらえることが重要です。
求められる能力としては
- 研究計画能力
- 問題解決能力
- 発言することができる能力
- 協力して研究を進める能力
などなど、正直企業によって求める能力が違うので、一概に言うことはできませんが、いかに研究に真摯に取り組むことができるかどうかという姿勢は大事そうですね。
こう言う場合は、もちろん特殊な例なので、エントリーシートを書いたり、たくさん面接を受けたりと言うのはほぼスキップして就職活動を終えることができます。
お互い良くわかっている状態で就職できるので、とても多くのメリットになるのではないでしょうか。
企業との共同研究はメリットよりデメリットの方が多い
以上が大学においての企業との共同研究の一つの実態になります。
どうだったでしょうか?
予想通りだったでしょうか?それとも結構ひどそうなものだったでしょうか?
メリットデメリットは人それぞれで受け止め方が変わるので、一概には言えませんが、私は学生が担当するにはなかなか重いものだなと感じます。
正直なところ、教授の管理・指導能力が大きく問われるので、教授が信頼できる人ならトライするのはありだと思います。
しかし、信頼が置けないような教授の場合は、苦労の方が多いので、避けられるならば避けた方が良いと思います。
とは言っても、冒頭で述べたように、学生なので大きな責任が伴わない(失敗が許される)状態で挑戦することができるので、就職先の確保や経験というメリットをいかに大きくすることができるかということを考えれば、またとない機会だと思います。
メリットデメリットをしっかり考え、自分のチャレンジ精神と相談してトライしてみてはいかがでしょうか。
逃げともいう人は言いますが、無理して精神を病んでしまっては元も子もないですよ。
ただでさえ、普通のテーマでも心を病む人はいるので、よりリスクの高い企業との共同研究は慎重に取り組みましょう。
大学で研究活動をしていて企業と共同研究を行う話が舞い込んできた時の参考として役立てていただけたら嬉しいです。
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