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脂肪組織の幹細胞で歯茎を再生する研究のメモ

Science Memo
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本記事では、脂肪組織から採取した間葉系幹細胞を使って歯周組織の再生を試みたという研究について学んだことのアウトプットです。

患者まで届いている再生医療の一つとのことです。
臨床研究として12例実施されており、ある程度の再生が見込まれているそうです。

確か歯周組織の再生医療では、FGF(線維芽細胞増殖因子)などを用いてある程度再生の効果が出ていると聞いていますが、なぜ幹細胞を用いた再生が必要なのか勉強します。

参考文献

脂肪組織由来多系統前駆の自己細胞移植による歯周組織の再生
日本再生医療学会雑誌 再生医療、第18巻第4号、メディカルレビュー社

https://www.m-review.co.jp/magazine/id/40
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研究概要

背景

歯を支える組織の一つである歯周組織は歯周病によって破壊されると自力で再生しないそうです。
歯周組織が破壊されて歯がなくなってしまった際の治療法としてのインプラントが発達してきているそうですが、「自分の歯を抜きたくない」や「大事にしたい」という患者の要望が多いそうです。
確かに、自分の体の一部は大事にしたいと思うし、気持ち的にも人工物でない自分の体の方がQOL的には健全だと思うので、大事な分野だなと感じます。

歯周組織の再生の歴史はかなり長いそうです。
1980年ぐらいから始まり、GTR法(Guided Tissue Regeneration)という組織再生の手法がまず考案されたそうです。(参考:実験医学online)(原理

その後、研究が進められ、2016年には世界初の歯周組織再生剤、リグロスという製品が発売されるまでに至ったの事。
リグロスはbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)という血管新生(血管が新しく作られるのを促す)や骨などの細胞の分化に関与するタンパク質を用いた薬だそうです。(参考文献1)(参考文献2)(リグロスについて:リグロス製品情報サイト、科研製薬株式会社

京都大学でもゼラチンハイドロゲルにbFGFを入れて、患部に移植することによって、自力で再生しない欠損箇所を再生させるということがされていましたね。(参考文献

課題

このようなタンパク質を使うことによって、体の中の幹細胞を活性化させることによって再生を促しているようです。
ただし、重症な人は体内にある幹細胞だけでは不十分なことと、加齢と共に幹細胞が減少するので効果がなくなってくることが課題とのこと。

この研究ではいかに適応範囲を広げることができるか?について取り組んだそうです。

解決策

幹細胞が足りないなら補おうということで、体に幹細胞を移植することで組織の再生に取り組んだとのこと。
ただし、iPS細胞やES細胞は用意するのに時間がかかるし、安全性の確認が大変なので、自分の体から採取した幹細胞を使うことで、拒絶反応や癌化のリスクを減らせるそうです。

確かに、体性幹細胞はiPS細胞やES細胞よりもある程度分化が進んでいるので癌化のリスクが低いと言われています。

この時使用した細胞が脂肪組織由来多系統前駆細胞(adipose tissue-derived multi-lineage progenitor cells : ADMPC)だそうです。
これまで使用されてきた脂肪組織由来幹細胞に比べて、脂肪細胞や骨芽細胞への分化能が高い、高純度な間葉系幹細胞とのこと。

間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cell : MSC)

骨髄や脂肪組織などの間葉組織に含まれる幹細胞の事。
再生医療への応用がかなり期待されていて覚えていて損はない細胞です。
(参考:実験医学online、羊土社

歯周組織の欠損した部分にこの幹細胞をフィブリンゲルに包んで移植するという簡単な操作で再生させようとのこと。

結果

はじめに犬で実験をしたところ、移植後6週間で歯周組織が再生している様子が確認されたとのこと。
その結果を元に臨床試験をすると、36週間で歯周組織の欠損が改善されていたとのこと。再生された箇所は4年半後もそのままだったことから、しっかり効果があったと判断されています。

課題点

課題はまだあるようで、再生の効果は個人差があるとのことです。
この個人差をいかに無くしていくかが課題だそうです。

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思ったこと・考えたこと

個人差をなくすという点について、ここは再生医療以外の薬の分野でも問題視されている部分だと思うので、ここが解決されたらかなり革新的だと感じます。

しかし何が関係しているんでしょう?
遺伝子的なところであれば、細胞に発現しているタンパクの種類や量なのか、それとも細胞内部での刺激のやりとりなのか。
はたまた組織の状態であれば、再生される周囲の組織中の細胞の状態が正常なのか、変化しているのか。移植する細胞が持っている機能自体差があるのか…
体のなかは複数の因子が絡み合っているので、ただ一つ「これ」というものを特定するのは難しそうです。
だからこそ、ここを掘り下げて解明するのはとても楽しそうですね。

また、今回は幹細胞の足場材料としてフィブリンゲルを用いていましたが、これを幹細胞の維持作用を持つような足場材料とかにしたらどうなるんでしょうね。
幹細胞をそのまま入れると、ほとんどが分化してしまい、幹細胞がなくなった時点で再生が止まると思うのですが…
そう仮定した時に、幹細胞を維持するような環境(幹細胞ニッチ)を作れるような足場を使うと、幹細胞は維持・増殖して、その環境から出てきた細胞が分化し組織の再生に使われる、みたいなことが起きたら効果が大きくなったりしないかな。
こう見ると材料化学の分野から、足場材料を開発するのも楽しそうです。
ただ、その足場を用いるのが早いか、完全に塞がるまで何回かに分けて移植するが早いかという話になりそう…?

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