本記事では「【味蕾細胞とオルガノイド】味覚の再生医療について」について学んだことをアウトプットします。
様々な臓器で再生医療の研究が進んでいますが、味覚の再生医療ってあまり耳に入ってきません。
そこで「味覚の再生医療はどのぐらい進んでいるの?」について勉強してみました。
味覚の再生医療は
- 命に直結しないため遅れ気味
- 幹細胞が発見され、オルガノイドの作製も進んできている
- 細胞移植と創薬の2つのアプローチが考えられている
とのことです。
これまで楽しめていた味を感じなくなるというのは、相当なストレスだと思いますし、人生の楽しみが一つ失われてしまうことでもあると思います。
味覚は命に直結しない部分ではあるものの、QOLの面で大きな影響を与えるので、発展が期待される分野ですね。
味覚と再生医療
味覚はもともと、食物中の栄養を感知したり、毒物を避けるためなどの役割を持っていたと考えられています。
現代では、栄養は数値で把握でき、普段口にするものの安全性は管理されているので、命に直結するような役割は薄くなりました。
一方で、「味を楽しむ」というQOL(Quality of Life)の側面が大きくなりました。
そんな理由から、五感の一つでありながら、生命が重要視される臨床医療現場だと軽視されがちになっていたそうです。
近年、抗がん剤による治療が発達してきたことによって、がんを患ってもその後の寿命が長くなりました。
ここで、抗がん剤の副作用である味覚障害の問題が大きくなってきたとのことです。
せっかく寿命が伸びても、味覚がないことによるQOLの低下です。
これまで感じていたものが感じなくなるというのは、非常にストレスになります。
QOL向上のため、これまで軽視されてきた味覚の再生医療が進められてきているようです。
どうやって味覚の再生医療に取り組むのか
「成体幹細胞を見つける方法について学んだメモ」による方法を用いて、
- 味覚の機能を持つ幹細胞(味蕾(みらい)幹細胞)を発見
- 味蕾オルガノイドを樹立
- 細胞、オルガノイドを解析
することで、味覚の制御法や再生法の開発に取り組んでいるそうです。
舌の幹細胞について
舌組織において下記の4種類の構造があるそうです。
- 糸状乳頭
- 茸状乳頭
- 有郭乳頭
- 葉状乳頭
これらの組織は、毎日食べ物などによる「物理的刺激」や「化学的刺激」などの多くの刺激によって絶え間ない傷害を受けています
舌の組織は普通の時で、5~7日程度で組織が入れ替わっているそうですが、傷害を受けた細胞はもっと早く再生されているそうです。
このように非常に再生が活発な組織なだけに、幹細胞が重要であると考えられています。
そこで味覚の再生にあたり、
- 舌上皮細胞
- 味蕾幹細胞
をまずは見つけたそうです。(PubMed)
味蕾オルガノイド の作り方
発見した舌上皮細胞を、小腸オルガノイドの作り方(PubMed)を参考にして、舌オルガノイド(味蕾オルガノイド )の作製に取り組んだそうです。
これにより2種類のオルガノイドができたとのこと(PubMed)
- 球状オルガノイド
- buddingオルガノイド
球状オルガノイドは、糸状乳頭を構成する災異某と似ているものが含まれていたそうです。
buddingオルガノイドは、各種味覚感知細胞が集まっている様子がみられたことから、味蕾オルガノイドと読んでいるそうです。
※buddingとは、「出芽」という意味。再生医療ではこれから臓器になっていくだろうというものを「臓器の芽」という感じでこの単語が使われていることが多い気がします。
現在、単一細胞RNAseqを用いて舌オルガノイドの解析が進められているとのこと。
どうやって再生医療などに応用していくのか
舌の幹細胞の同定が進み、オルガノイドの作製方法も開発されてきました。
これをどのように再生医療などに応用するのかが次の課題とのこと。
- 再生医療
抗がん剤の副作用に対する治療
甘味、塩味制御による食事療法やメタボリックシンドロームの予防 - 創薬
味覚シグナルを増強、低減させる低分子の開発
このために、in vitroで細胞や組織を作って移植したり、in vivoで再構築したりする戦略で研究が進められているとのことです。
思ったこととか考えたこととか
再生医療について、様々な組織(心臓、肝臓、膵臓、腸、脳 etc.)が注目され研究されています。
一方で、命に直結しないという理由で舌(味覚)の再生医療が遅れているというのは衝撃的でした。確かに、命に直結する所の優先度という理由もわかります。
髪の毛は命に直結しませんが毛髪の再生医療はなかなか進んでいるように感じます。
毛髪も味覚もQOLになかなか大きな影響を与えているとは思いますが、やはり他人にも影響を与える毛髪の方が影響が大きいということでしょうか。
味蕾オルガノイドを作製するために、小腸オルガノイドの作製方法を参考にしたとありました。
この方法について、改良されたものも出てきています。
例えば、大日本印刷も関与して取り組んでいる、パターニングという細胞の接着する場所しない場所を制御することで、動く腸オルガノイド(ミニ腸)を作製したという報告があります。(国立成育医療研究センター)(PubMed)
オルガノイドは「小さな臓器ができた」と言われがちですが、実際には臓器っぽい構造を持つ部分が確認された程度のものが多いです。目的の構造を目的の場所に制御して作ることができないという欠点を持っています。
今後、培養技術の発展で解決していくべきところだと思うます。
このような部分で、細胞の配置とか、形状を制御するところで、工学の技術が貢献できるのではないかと言われていますし私もそう考えます。
命あっての物種と言いますが、味を楽しめなくなるのは、人生の楽しみが一つ減ることに変わりないので、今後の発展が期待される分野ですね。
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