再生医療についてどれほどご存知ですか?
2012年に山中伸弥先生がiPS細胞の研究でノーベル賞を受賞して、多くの方が再生医療という言葉を耳にしたかもしれません。
ただ、中身について説明できる人というのはそこまで多くいないかもしれません。ということで、今回はそんな再生医療を今更ながら解説してきます。
再生医療が始まったのはいつから?
再生医療は、結構最新の技術ではないかと思う人も多いかと思いますが、1997年にVacanti博士とLanger博士たちが組織工学という人工的に臓器の一部を作るという研究を提唱しています(1)。が、実は1970年代にGreen博士が皮膚の構造を人工的に作るという研究を報告しているそうで(2, 3)、ここらへんが再生医療のスタートではないかと言われているそうです。
再生医療とはどういうものなのか
再生医療について覚えることは次の3つで十分ではないかと思います。
1. 体本来が持つ再生能力を高める
2. 細胞を移植して機能を補完する
3. 臓器を作って移植する
体本来が持つ再生能力を高めるについて
皆さんは小さな切り傷や擦り傷を負ったり、風邪をひいたりしてしまった時や風邪といった小さな病気にかかった時、適切な処置をして待つだけだと思います。まさか救急車を呼ぶ方はいませんよね。
このように、人体にはもともと傷や病気を自分で修復する能力を持っています。しかし、大きな怪我をしたり、重い病気にかかったときは人体の再生能力では修復し切ることができず、命に関わることとなります。
(プラナリアみたいに驚異的な再生能力を持っていたらよかったですが、、、)
流石にこの場合は、お医者さんに治療してもらうことになります。といっても、厳密にはお医者さんは患者さんの怪我や病気を治すための手伝いをしているだけで、実際に治しているのは患者さんの体となります。
(具体的に説明すると、お医者さんがやっている治療というのは、人体が持つ再生能力では治すことができない状態に陥っている場合、手を加えたり薬の力を使ったりすることで、再生可能な状態まで怪我や病気の状態を改善させるということなのです。)
ではこれまでのお医者さんの治療が全て再生医療かというとそうではありません。特殊な薬を用いて人体の再生能力を飛躍的に向上させることを再生医療と呼んでいるそうです。
例えば、京都大学の研究では、線維芽細胞成長因子(FGF:Fibroblast growth factors)と呼ばれる細胞から分泌される成分を薬として利用しています。糖尿病などによって壊死した部分は、栄養を運ぶための血管が壊れていることで、自然に治癒することができません。しかしこのFGFを壊死した部分に使用することで、血管を復活させて、自然に治癒することが可能ということを報告しています(4)。
また、大阪大学でもFGFを薬として使用することで歯茎の骨を再生する研究を報告しています(5)。
このように、もともと人体が持っている再生能力を飛躍的に向上させることで怪我や病気を治すというものが再生医療の一つであると言われています。
細胞を移植して機能を補完するについて
皆さんの認識としてはこれこそが再生医療という感じではないでしょうか。
機能が低下してしまった臓器に、細胞を注入、補填することで機能を回復させるというものです。
現在非常に多くの研究者が実用化に向けて研究に取り組まれています。日本では大阪大学の心臓の細胞をシート状にして心臓に移植する治療方法(6)、理化学研究所の網膜の細胞をシート状にして目に移植する治療方法(7)、京都大学では神経の細胞を移植することでパーキンソン病を治療する方法(8)などが臨床研究がスタートしていて注目を浴びていますね。ニュースでも割と取り上げられているかと思います。
詳細についてはまた後日記事にしたいと思います。
臓器を作って移植するについて
これはまだまだ未来の夢のようなお話ですね。
コンセプトとしては、臓器の働きが弱くなってしまったので、新しい臓器を作って取り替えましょうというものです。臓器丸ごと一個なんて作れるのかという疑問に対しては、今の技術では無理というのが答えとなります。
しかし、希望の光はあります。横浜市立大学(現東京医科歯科大学)の先生がミニ肝臓を作製したという研究が報告されています(9)。実際の肝臓に比べて、まだ非常に小さいものですが、これまで人工的に作られてきた肝臓の組織の中でも飛び抜けて本物に近い機能を持っているだとか、、、
今日明日来年再来年というような短期間ではできませんが、決して夢では終わらないと信じています。
長々と書きましたが、結局のところ再生医療というのは
1. 体本来が持つ再生能力を高める
2. 細胞を移植して機能を補完する
3. 臓器を作って移植する
という3つの認識でよいと思います。
これからの再生医療
再生医療のこれからの発展として
1. 実用化に向けた、治験、臨床研究のスタート
2. ミニ臓器の開発
3. 薬の開発(創薬)への応用
が期待されています。
実用化に向けた、治験、臨床研究のスタートについて
もう既にニュースで取り上げられているのでご存知の方も多いかと思いますが、既に心臓、網膜、パーキンソン病の治療のためにiPS細胞を使った再生医療の治験、臨床研究が進められています。今後さらに様々な臓器の病気に向けての治療法が開発されていくことでしょう。
ミニ臓器の開発について
もう既に紹介しましたが、肝臓をはじめとして、腸といった様々な臓器の一部分を再現する研究が盛んに進められています。オルガノイド(臓器のようなもの)とも言われているので、興味がある方は是非調べてみてください。
薬の開発(創薬)への応用について
再生医療とは少し離れますが、薬を開発する時は、薬が効くかどうか、安全かどうかということを細胞や動物を使って調べてから、人で確認をしていって最終的に薬になります。この人で確認する前の段階で細胞や動物を使う問題があるとのことで(長くなるのでまた次の機会に記事にできれば)、この部分をミニ臓器など人工的に作られた細胞の塊(組織)を使うことでより効率よく薬の開発ができると考えられています(10)。
という感じで、再生医療はまだまだこれからのものが多く実用化も難しいですが、日々着々と研究が進められています。ニュースなどでも取り上げられているので、興味がある方はチェックしてみてはいかがでしょうか。当ブログでも、紹介していけたらと思っています。
参考文献・記事
1. Langer R, Vacanti JP. Science. 260, 1993.
2. Rheinwald JG, Green H.Cell. 6, 1975.
3. Green H, Kehinde O, Thomas J. Proc Natl Acad Sci U S A. 76, 1979.
4. https://www.kyotobank.co.jp/houjin/report/pdf/special201505.pdf
5. https://www.dent.osaka-u.ac.jp/admission/admission_000301.html
6. http://www.med.osaka-u.ac.jp/archives/12498
7. http://www.riken.jp/pr/topics/2019/20190418_1/
8. https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/180730-170000.html
9. https://www.amed.go.jp/news/release_20171206.html
10. https://reprocell.co.jp/products/cell-biorepository/discovery
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