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元ポスドクが企業の研究者になって1年過ごして大事だと感じたこと【研究への意識】

研究の姿勢
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研究者として研究に没頭するなら大学でしょ!
と意気込んでいた人間が、まさかの企業で研究者になってようやく1年経ったので感想をアウトプットします。

大学と企業の違いについては「元ポスドクが企業の研究者として6ヶ月過ごしたので大学と比べてみた」でアウトプットしていて、1年経った今も変わりません。

本記事では企業で研究する上で大事だなと感じたことについて

  • 周りにいかに研究のことを理解してもらうことができるか
  • ものを作ってなんぼ

の2点は、自分がここ1年でとても重要なポイントだと感じました。

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周りにいかに研究のことを理解してもらうことができるか

大学と企業の研究に対する理解での大きな違い

研究をいかに理解してもらうことができるかが大変でした。
大学にいた頃とかなり明確に違う部分だなと感じた部分です。

大学は研究室という数十人ぐらいで構成されていて、その中で研究活動を行うところが多いでしょう。
よっぽど大きすぎる研究室でない限りは、メンバーの研究のことはだいたい把握しているし、ボスももちろん研究のことを把握しています。
その環境では、新しい研究テーマに取り組みたいときは、ボスを説得させることができればよかったです。

一方で、企業に入って大きく違うと感じた部分は、数百人以上で構成された会社という大きな組織の中のとある一つの部署が研究部署であることです。
研究部署内ではもちろん内部の研究テーマについては理解していますが、上に行けば行くほど、研究テーマや実状、その意義について理解している人は少なくなります。

これは仕方ありません。
かなり大きな組織を動かすため、見ている部分、判断する部分が違うのは当たり前です。
自分がその位置に立った時に、研究だけでも精一杯なのに各部署の本当に細部の部分まで理解しながら判断できる自信はありません。

しかし、研究するためのお金の配分を決めているのは上なので、結局上の人に納得してもらうことができないと、新規テーマに取り組むことは難しいです。
この「納得してもらう」ことについて、大学にいた時よりも「大変」かつ「かなり重要」なことであると感じました。

どうやって上の人に納得してもらうか

実際に会社の上の人とやりとりするのは研究所の上の人たちです。
自分ができることは、その研究所の上の人たちにいかに納得・理解してもらうことができるかです。

基本的に研究所の人たちは、アイデアが出れば出るほど製品の開発が進むので、協力的と言うか心強く頼もしい理解者です。
その人たちがさらに上の人たちを説得できるように、理解してもらうことができるかどうかが勝負だと感じました。

この時に大事なことは、

  • その技術がどれぐらい必要とされているのか
  • どんな技術で、どんな製品として、どんな人に、どのように使ってもらうことができるか
  • 実現する可能性は高いか
  • プレ実験でどの程度目星をつけることができているか

といった点だと感じました。

大学では論文になるかどうかが重要な点で、新規性があるかないかが判断基準でしたが、企業はより広く具体的になっているので、そのための調査やプレ実験がかなり大変でした。

上記大事な4点をまずは自分の研究部署の上の人に十二分に理解してもらうことができるかどうかだと感じます。
実際に、その内容を会社のテーマとして行うかどうかは、上の人たちで議論して決まります。
自分が直接議論の場に出ることはできないので、どれだけ託せるかどうかなのだと思いました。

納得してもらう上で大事だと思うこと

とにかく「わかりやすく」かつ「情報量は落とさずに」が大事だと実感しました。

自分の中で「わかりやすい」というのは情報量を削り取ってシンプルにすることで、少ない知識でもわかった気になるようなものだと思っています。
ただ、この「わかりやすい」と言うのは、何かを判断するための情報が少なすぎます。
なので、テーマ提案において、わかりやすくする上で情報量はなるべく落としてはいけないと考えています。
学振や科研費とかの申請書と似たものを感じます。

ではどうするか?

  • どんな製品を目指しているのかを明確に
  • 言い換えをすることで専門用語を減らす
  • 具体的な数値でどれだけ違うのかを明確に示す
  • 定性的にしか説明できないことは、どのように違うのかとにかくシンプルに示す

ことが大事なのかなと思います。

資料作成はとにかく最終的に判断る研究部署よりもさらに上の人たち、つまり研究にあまり詳しくない人たち向けに作成することが大事なんでしょうね。

同じようなバックグラウンドを持った人が集う学会では多少妥協しても伝わりますが、社内だと上に行けば行くほど伝わらなくなるので、学会発表の時の何倍も丁寧にする必要があって苦労している部分です。
苦労しているということは大事なところなんだなと思うので頑張るしかないのですが。

ものを作ってなんぼ

企業は論文や特許を出すだけでは食べていけない

会社は「もの」を作って世に出してその対価をもらうことで成り立っているところが多いです。
どんなに素晴らしい研究をしても、ものを作ることができなかったら生き残っていけません。

大学と違うところですね。
役割が違うから当たり前といえば当たり前なのですが。

大学で論文のためにやっていた研究がぬるいとは決して思いませんが、製品づくりの研究は違った部分で大変だと感じました。

論文のための研究は、課題に対して提示する答えの新規性や妥当性が問われるもので、そこに矛盾や穴がなければ成立するものだと思っています。
一方で、製品づくりのための研究は、「世の中の人たち」という要素が入ってきているため、論文のように論理が成立していればよいというわけではありません。
というところが難しいと思います。

論理的に矛盾のないものが売れる訳ではありませんからね。
必要とされているものをいかに作ることができるかどうかだと感じます。

科学や研究はそのための一つのツールでしかありません。
技術を洗練すれば良いわけではなくて、市場やターゲットなど考えるべきことがたくさんあるので、一つのことに特化しているよりは全体を見渡す能力も必要になってくると感じています。

企業でも論文は書けるが…

自分の部署では論文をそこそこ出しています。
全く出していない部署もあります。

その違いは何でしょうか?

それは「顧客が論文ベースの考え方をしているかどうか」です。

自分の部署はライフサイエンス系で、どうもその分野では、論文によって信頼性が担保されているかどうかが重要視されていることが多いらしいです。
つまり、顧客側が効果の有無を論文で判断しているので、論文がないと判断してもらうことができません。
このような文化がある分野では、論文を出すことはかなり重要な仕事になります。
そのために、論文を出しているそうです。

他の分野では、論文ベースではなくて、実際に提示された証明書などを判断材料としている文化もあるようで、そういった分野では、論文がいくらあっても意味をなさないそうです。
そうなると論文を書く業務はやらなくてもよい仕事ということになります。

こんな感じで、企業でも論文を書いているところもあるけれど、製品(もの)ありきであると言うことは忘れてはいけないなと思いました。
論文はあくまでも信頼性を保証するサポート的なものであり、大学ほど中心的な業績ではないように感じます。

とは言っても、もちろん論文が出れば研究所全体的にも喜ばしいことですし、出した人の評価はもちろん上がります。

ものづくりをしよう

自分は大学にいたときは工学分野に属していて、「ものづくり」と言ってはいたけれど、いざより社会に近い企業で「ものづくり」を行ってみて、今までの言ってたものづくりはものづくりからは程遠いなと実感しました。

個人的な感覚ではあるけれど、論文を出すことよりもはるかに難しいと感じています。
その理由の一つとしては、大学ではたとえ失敗したテーマであっても、なんとかデータを拾い集めて論文にすれば幾ばくかは報われます。
しかし、企業の場合はテーマを失敗して製品に繋がらなければ赤字のようなものなので気が気ではありません。
(失敗テーマから学べるものも大きいので無駄ではありませんが、それでもプレッシャーは感じます。)

これまでは科学技術や研究だけに没頭してきて、論文はその中でも書くことはできましたが、ものづくりはもっと社会を知らないと作ることができないなと感じています。
自分よがりな技術は大して意味がないなとも思います。
世の中で求められているもの、必要だと明確に気づいていないけどいざ出ると注目されるものを作らなければいけないのでしょう。

科学技術の中だけでなくて、その外側である人や文化などの社会に目を向けないとなかなか製品になる技術を思いつくことは難しいと痛感しています。
目を向けた中で気づいた解決すべき問題を、解決するための方法の一つが科学技術であり、ものづくりの在り方なのかなと考えています。

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まとめ

以上、「元ポスドクが企業の研究者になって1年過ごして大事だと感じた研究への意識」についてのアウトプットでした。

企業で研究する上で大事だなと感じたことについては下記の2点です。

  • 周りにいかに研究のことを理解してもらうことができるか
  • ものを作ってなんぼ

企業研究者を1年やってみて、大学と企業の違いの他に、企業の研究の意義的なこともぼんやり見えてきたように感じます。
まだまだ学ぶことは多いので、日々努力の楽しい研究者ライフを送っていこうと思います。

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