本記事では「皮膚(表皮)にある幹細胞はニッチとしての機能も持つ」という記事を読んで学んだことついてアウトプットします。
概要は下記の通り
ニッチと言えば、幹細胞を維持する環境として知られています。(ニッチとは:実験医学online、羊土社)
そして、表皮における幹細胞としては、皮膚を新しく作ったり、傷を修復する機能が知られています。
ところが、その表皮の幹細胞が他の細胞のニッチとしての機能を実は持っていることが明らかになってきたとのこと。
普通に幹細胞と言えば、体内のニッチと言われる環境で機能を維持されているという認識でした。しかし、今回の記事ではこれまでとは全く逆の、「幹細胞がニッチの機能を持つ」ことが報告されており、ただただ衝撃の一言です。
表皮の役割と幹細胞
皮膚(表皮)の役割
- 外部の攻撃から守る
- 圧力・温度・痛みなどの感覚
- 水分や温度を保つ
- 皮膚の色による個体間でのコミュニケーション
たくさんの細胞によってこれらの機能が作り出されています。
この皮膚が外からの衝撃で損傷を受けるとどうなるか?
もちろん、再生をすることで損傷を修復していますね。
傷がつかなくても新しい皮膚を作って綺麗に保っています。(つまり頻繁に再生している)
この時に働いているのが、「幹細胞」です。
古くなって捨てられていく細胞に対して、新しい細胞を供給しています。
幹細胞の働きについて
これまでの研究では、幹細胞から増殖能力が高い細胞を作り出してきて、皮膚を修復していると考えられてきました。
ところが、最新の研究では、表皮には想定しているよりも多くの種類の幹細胞が見つかってきたそうです。
そして、増殖能力の高い細胞を作る他に、幹細胞同士が集まり、周りの細胞の機能維持や構造制御をする働きを持っていることが分かってきたとのこと。
このことから、幹細胞自身が周りの細胞を制御するニッチとしての機能を持っていることが明らかになってきたそうです。
表皮の幹細胞のニッチの働き
2種類の表皮
表皮には2つの部分があるとのことです。
- 毛包表皮
毛などの付属器を構成している表皮の部分。毛と真皮の間に薄い表皮が実は存在していて、そこのこと。 - 毛包間表皮
表皮の表面を覆う表皮のこと。表皮といえばこれ。主に外部と接している大部分。
表皮に存在している幹細胞
2つの表皮中にはそれぞれ別の幹細胞が存在しているそうです。
毛包表皮では
- Lg5+毛芽幹細胞
- Cd34+/Krt15+バルジ中央部幹細胞
- Gli1+バルジ上部幹細胞
- Lgr+イスマス幹細胞
- Lrig1+ジャンクショナルゾーン幹細胞
毛包間表皮では
低増殖性の幹細胞がいることが知られていて、近年、他の幹細胞も見つけられてきているそうです。
毛包間表については、幹細胞と他の細胞の働きをの詳しいことはまだまだ議論中とのことです。
表皮の幹細胞が他の細胞に与える影響
表皮の幹細胞のよく知られている代表的な働きとしては、
- 皮膚を維持する
- 損傷した時に修復する
の2つが有名ですね。
これに加えて、周りの組織を制御するニッチとして働くとのことです。
表皮の幹細胞が他の細胞に対する作用は下記のものがあるそうです。
筋肉に対して
皮膚が刺激に反応した時に毛が逆立つことがありますね。
これは立毛筋という筋肉が作用しています。
表皮幹細胞の作ったニッチが、この立毛筋の分化に必要とされているそうです。
神経に対して
外からの刺激(圧、振動、伸展など)に応答するのに神経が重要な働きをします。
この神経の発達において、表皮にあるバルジ上部幹細胞が神経発生に関わる遺伝子が発現、タンパク質の分泌をしているそうです。(理化学研究所、プレスリリース)
脂肪に対して
脂肪が毛包幹細胞へ働きかけることで、毛包の再生周期や制御されていることがわかっていました。
逆に、毛包幹細胞は脂肪への誘導を制御している機能を持っていることが分かってきたそうで、幹細胞と脂肪がお互い作用し合っている状態を取っているそうです。
リンパに対して
表皮の幹細胞がリンパ管制御因子を出すことで、リンパ管の配置や状態を制御しているそうです。
線維芽細胞に対して
一言に線維芽細胞と言っても、たくさんの種類があるそうです。
最も解析が進んでいるものは、毛乳頭細胞(毛包の再生と発生に必須)というもので、表皮の幹細胞から分泌される因子で誘導されるそうです。
まとめると
- 表皮には想定されていたよりもたくさんの幹細胞がいる
- それぞれの幹細胞が集団を作って特定の場所に存在している
- 幹細胞の遺伝子発現と細胞の挙動が、周囲の細胞と相互作用するために最適化されている
- つまり、表皮の幹細胞が他の細胞にとってのニッチになっている
思ったこととか考えたこととか
思ったこと
ニッチと聞くと、どうしても体内での幹細胞を維持する環境という考えで凝り固まっていたからかなり衝撃的でした。
幹細胞はかなり繊細で少しの環境変化でも他の細胞に分化してしまうというのがこれまで多く言われてきました。
この先入観が、他の細胞に与える影響よりも、受ける影響の方が強いという考えに固執することになっていました。
発生の段階では幹細胞の中から、他の細胞ができ、形作られているので、言われてみれば当然のように感じます。まさにコロンブスの卵みたいな感じでした。
先入観にとらわれないで、原理原則に基づいて柔軟に考えるべしですね。
考えたこと
皮膚は真皮と表皮の2種類の層になっています。
実際にこの二つの層を再現することで、人工的に皮膚の組織をつくる研究が進められています。(論文メモ8:細胞競合からみる皮膚の再生と老化について)
ただし、作られた皮膚の組織は寿命が極端に短いと言われています。
その理由は幹細胞がいないためだと考えられています。表皮の細胞がどんどん分化するのに対して、新しい細胞が供給されないため、構造が維持できないのでしょう。
これを解決するためには、幹細胞をいかに入れ込んで、制御することが大事なのではないかと考えていました。
ところが今回の記事では、幹細胞が皮膚の構造や機能を制御することが明らかになったと言われています。
考えていた以上に複雑でしたね。
やはり複雑な系を実現するためには、人工的に構造を作り込むよりも、細胞自身が持つ自己組織化の機能をいかに制御するかが鍵になるのではないかということでしょうか。
最近、iPS細胞から皮膚のオルガノイドを作ったという論文が発表されましたね。(PubMed)
このオルガノイドの皮膚構造体は、ラットの皮膚に移植するとちゃんと毛が生えてくるらしいです。
ただし、オルガノイド の長年の欠点でもある、構造の制御はやはり難しそうに見えます。
(どこにどの構造ができるかはランダム性が高く、細胞の塊の中のある一部に目的の構造ができているものが多い。)
いかに組織工学の技術とオルガノイドの技術を組み合わせていくかがポイントなのかなぁと考える今日この頃です。
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