※本記事内に広告を含む場合があります。
PR

再生医療を自動化ロボットで高い再現性を実現するメモ

研究ライフ
スポンサーリンク

本記事では「再生医療で重要な「再現性」を達成するために自動化ロボットが有用なのでは」について紹介した記事を読んで学んだことをアウトプットします。

再生医療が注目を浴びて、十数年経ち、実際に製品となって人々が恩恵を受けることができるようになってきました。
過去記事でも再生医療のここ10年間の変化をアウトプットしました。
とは言ってもまだまだ課題が多いのも事実です。

その一つとして、

  • 細胞やタンパク質という不安定な材料を用いて
  • 数多くの工程をこなし
  • 全く同じ性能を持つ製品を作る

という課題を攻略する必要があります。
この課題を解決するために、ロボットが非常に大きな可能性が秘められているとのことです。

参考記事

細胞培養を「包括的」に自動化する〜再生医療の価格破壊は可能か?
夏目 徹
日本再生医療学会雑誌 再生医療 第19巻第3号 メディカルレビュー社

スポンサーリンク

細胞培養の大変さ

再生医療の研究では細胞培養がほぼほぼ必須の実験になってきます。
細胞培養は

  • 培地交換
  • 継代
  • 観察

など多くの作業をしなければいけません。

ただしこれは実験ではなく、「実験のための準備」です。
この多くの作業をこなしてからが実験の本番であることが多いです。

準備した細胞で、

  • 機能評価
  • 薬剤評価
  • 形態評価
  • 解析

などなどの「実験」を行います。

この「実験の準備」でラボワークの7割を占めているという人もいるとのこと。
こういった課題を解決するために注目されているのが、「自動化技術」です。

ライフサイエンスの自動化への挑戦

細胞培養を含めたライフサイエンスの実験の自動化は、2000年にはもう取り組みが始まっていたそうです。

当時、そのロボットは自動車工場などで使用されている産業用ロボットを参考にしているそうです。
この時のロボットは「one-job-one-robot」という、一つの工程を一つのロボットが担当するという主流の方式だったとのことです。

著者はこのロボットを用いて、免疫沈降法によるタンパク質の同定を全自動化してみたそうです。
結果は「破綻」したとのこと。

その理由は、

  • 全ての工程を合わせると20ステップぐらいある。そして、「one-job-one-robot」方式だと単純に20種類のロボットを使うことになる。
  • 安全性を保つための生産現場作法として、「ロボット同士の衝突回避のためのスペース確保」「同時稼働しない」がある。
  • ライフサイエンスの場合、同一条件で処理をしたもので比較する。ライン方式のロボットは、その処理以外のときは動いていない状態になる。

など実際に作ってみると、ライフサイエンスとこれまでの産業用ロボットをそのまま応用するのは難しいということがわかったそうです。

ちなみに上記の取り組みは5年と数億円を費やしてできたものだそう。

さらには、上記のような状態に加え、

  • 少しのプロトコルの変更も不可
  • 容器の種類や容量も変更不可
  • 使える人しか使えない

という、尖ったロボットができてしまったとのことです。

これだけかけて失敗に終わった、、、というわけではないのがすごいところです。
「再現性」「品質」については確かな結果が得られたとのことです。

自動化ロボットの価値の本質ってコストダウン?

自動化ロボットの役割と聞くと多くの人は「大量生産によるコストダウン」ということを想像するかもしれません。
ところが、ライフサイエンスにおいて自動化ロボットの価値は別のところにあるかもしれないとのことです。

タンパク質の解析を全自動化ロボットでやってみたところ、
手動では、全く同定できなかったり、数回しか同定することができなかったそうです。
一方で、ロボってでは、10回中、全て同定することができたとのこと!

再現性が低い系での実験結果は

  • 本当に新しい発見か
  • 偽陽性か

を判断することが難しいと言われています。。
論文として残す程度であれば、再現性が多少低くても、その現象が確かに起きていたことを証明すれば、成り立ちます。
ただし、実際に応用するとなるとそうはいきません。
ここで、「ロボットの再現性の高さ」という、人間に不可能なところができてしまうという価値が唯一無二なのではないか?とのことだそうです。

一見、失敗したと思っても、その中から価値を見出しているのすごいと思います。
自分が数年数億円かけたもので失敗したと想定すると気が気じゃありません。

ライフサイエンスに取り組めるロボットとは?

先ほどまで、産業用ロボットを参考にしたロボットは、非常に良い「再現性」を示したが、実用的でないということでした。

それを踏まえてライフサイエンスに取り組めるロボットとは何でしょうか?

その答えが「ヒューマノイド」とのことです。
ライフサイエンスでは、様々かつ複雑な作業に対応する必要があります。
そこで、人の動きがコピーできる「ヒューマノイド」が鍵になるとのことです。

まほろ

まほろというロボットが開発されています。(参考:AIST TIVB

  • 2本のアーム
  • 7つの関節

を持つことで、人の動きを再現することができるロボットです。
何より、これまで人が使ってきた周辺装置をそのまま使用することができるというのが非常に大きなメリットとのことです。

まほろの性能

PCRのばらつき

毎日PCRをやっている研究員が行っても、だいたい20~30%のデータのばらつきがあるとのことです。
ところがどっこい、「まほろ」が行うと4%以下になるそうです。

iPS細胞の分化誘導

iPS細胞から目的の細胞へ分化誘導する時に、プロの手法をまほろにインプットすると、なんと1回目のトライで分化誘導が成功したそうです。(とは言っても30点ぐらいの品質)
ここで100点の品質にするために、時間、試薬濃度、操作速度などの約3000通りの条件を絞り込み、トライすることで、100点の分化誘導方法を習得するに至ったとのことです。
これはたったの2回目のトライだったというのがすごいですね。

人がこれを習得するときは10年かかったとのことというので、こういう点でロボットはすごいと感じます。
そして、一度習得したものは数値化されているので、高い再現性が得られると考えられているそうです。

再生医療でのロボットの活用

再生医療を実現する時に、最適化されたプロトコルで安定した結果を出せる人を育てるのがとっても大変な課題であると言われています。
熟練者にしかできないため、属人性が高いということが言えますね。
そこが再生医療のボトルネックの一つとなっているそうです。

これを最適化されたプロトコルを確実に実行できるロボットが解決してくれるのでは無いか?ということですね。

とは言っても、細胞も生き物なので、毎回同じ設定で全てうまくいくとは限りません。
その時に役に立つのが、「ロボット+機械学習」であるとのことです。
機械学習を織り込んでフィードバックしながら調整することで、再現性をより高めることが期待されているそうです。
そして、ロボットは教育のコストが極端に低いので、製造スケールに合わせて調整することが人よりも簡単であるというメリットがあります。
上記のような戦略で再生医療をより現実的なものにすることが期待されているとのことです。

スポンサーリンク

思ったこととか考えたこととか

再生医療の分野では最近よく自動化とは言われているものの、ここまで考えて自動化ロボットについて考えて説明している記事は初めて読み、とても勉強になりました。
著者の苦労話や考え方が非常に面白く書かれているので、興味がある人はぜひ本文を読んでみてほしいところです。

ロボットを使う理由としては、

  • 大量生産
  • 再現性

が挙げられていますが、本話題では大量生産よりも再現性の方が本質的だというように考えられていました。
確かに、再生医療の場合、免疫拒絶の問題があるので患者によって、使用する細胞を選択しなければいけません。
さらに、疾患の違いによって適用できる治療法も違います。
このため、大量生産で同じものをたくさん作るよりも、再現性良く、患者に合わせた製品を再現性良く作る方が理にかなっていると考えられますね。

本文で紹介した「まほろ」のiPS細胞の分化誘導については網膜の再生医療に取り組まれている高橋先生の研究についてでしたが、これについては実際に高橋先生の講演で聞いたことがありました。
iPS細胞の分化誘導は同じ試薬を使ったとしても、人によってかなり結果が変わってしまうということがよく言われています。
これはどうもピペッティングの速さだったり、作業時間でどれだけインキュベーターの外に出していたかなどの作業者の微妙な違いが関係しているとのことです。
にわかには信じらませんが、「まほろ」で各作業者の操作方法をインプットすると本当にその人の結果が再現できるとのことで、かなり驚いた研究結果でした。

こう言った結果を示される、バイオ系の研究の論文はなかなか再現性が取れないというのも頷けますね。
いつか、ロボットで全てのプロトコルを数値化した状態で実験した研究結果しか論文として認められなくなる、なんて未来がきたりするかもしれませんね。

ロボットやAIが発展すると、人の仕事がなくなるというのは昔も今も言われ続けています。
AIの登場でその意見はさらに加速していると思います。
ただし、このバイオ系の分野においては、職を失うということはあまり考えられないというのが私の意見です。
その理由は、そもそも培養のプロフェッショナルはそんなに多くないといことです。
そして、本文でも述べたがプロフェッショナルを育成するのはとても大変ということ。
再生医療を実現化するとなると、むしろ人手が足りていない状態であると言われています。
なのでロボットで補う方がはやいということと、そもそも仕事が奪われる「人」自体少ないように感じます。

現在いるプロフェッショナルの仕事が奪われるのか?
多分そうはならないんじゃないかなと思います。
ロボットは現状あくまで、人が考えたことを、人の代わりに実行するツールです。
何が良いか、悪いかの基準は人が判断して決め、ロボットはそれを再現するための装置というのが今のところの位置付けではないでしょうか。
機械学習も現状は人が提示した正解をインプットすることで、それに基づいて判断している状態だと自分は考えています。
つまり正解を決める人が必要ということです。
これを決めることができるのはプロフェッショナルしかいません。
ということで、バイオ系の分野においては仕事を奪われるという心配は無いのではというのが私の意見です。

むしろ、プロフェッショナルが実験のための多大な準備という負担から解放されて、より研究の流れや実験データの解釈といった重要なことに取り組むリソースが増えるなど、メリットの方が大きいいのではないかとも思います。

といった感じで、再生医療を実現するためには、ロボットの役割が非常に大きいなと感じる記事でした。

コメント

タイトルとURLをコピーしました