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循環器内科からの心臓の再生医療について【細胞から移植まで】

研究ライフ
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本記事では「心臓の再生医療について慶應大学循環器内科のチームが細胞作製から移植まで網羅的に取り組んでいること」について紹介した記事を読んで学んだことをアウトプットします。

心臓の再生医療と言えば細胞シートを用いた大阪大学のチームがよくニュースなどで取り上げられていますが、慶應大学のチームもかなり尽力して取り組んでいます。
近年では、臨床研究のステップまで到達しているとのこと。

iPS細胞から心筋細胞の大量作製、純化精製、移植までを主に1つのチームの中で網羅的に研究を進めている、心臓の再生医療で注目のチームの一つだと感じます。

参考記事

第19回日本再生医療学会の振り返りと循環器内科領域の再生医療について
福田 恵一
日本再生医療学会雑誌 再生医療 第19巻第3号 メディカルレビュー社

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心臓の再生医療

まず、なぜ心臓は再生医療が必要なのかおさらいします。
難治性の重症心不全は現在心臓移植しか有効な治療法がないとされています。
しかし、移植にはドナー不足や倫理的課題などがあり限界があります。
そこで、iPS細胞で作製した心筋細胞の移植による再生医療の治療が期待されているというわけです。

心臓の再生医療のために必要な技術

心臓の再生医療と実現させるために必要な技術は下記の5つと考えられています。

  • iPS細胞の安定した大量培養
  • 心室の心筋細胞の作製
  • 心筋細胞のみを純化精製する
  • 効率的な移植の準備
  • 効率的な移植方法の開発

iPS細胞の安定した大量培養

iPS細胞を触ったことがある人はわかると思いますが、iPS細胞は繊細で培養がかなり難しい細胞になります。
少し気を抜くと全然違う性質を示す細胞になったり、食費(培地代)がかかったりと世話のかかる子達です。

その中で、大量培養を行うときは細胞を球状の塊にして3次元の浮遊培養が一般的です。
しかし、iPS細胞の場合、浮遊培養で細胞が大きな塊に成長すると、塊の内部と外部で環境が違うのでiPS細胞が分化してしまうことがあります。
そこで、慶應大学のチームでは、iPS細胞の未分化状態を維持したまま大量培養するために、2次元培養の方法を作ったそうです。

上記を行うことで、安定的に大量にiPS細胞を培養することができたとのことです。

心室の心筋細胞の作製

心臓は場所によって様々な細胞が局在しています。
大きく分類すると下記の3つです。

  • 洞結節
  • 心房筋
  • 心室筋

一般的に用いられているiPS細胞から心筋細胞への分化誘導方法だと、上記の複数種類の細胞が混合された状態になります。
しかし、心不全の治療には、心臓の心室部分に心室筋の細胞を移植するのが効果的ではないかと言われています。
このため、慶応大学のチームでは心室筋になるような分化誘導方法を開発したとのことです。

心筋細胞のみを純化精製する

iPS細胞の再生医療で最も心配されていることが未分化なiPS細胞の混入です。
その理由はiPS細胞はどんな細胞にでもなるため、「がん化のリスク」が非常に怖いそうです。

この課題を解決するため、慶応大学のチームでは心筋細胞のみを回収する純化精製の方法を開発したとのことです。
細胞ごとの代謝の違いを上手く利用して、心筋細胞のみを生かしてその他の細胞を除去するシステムです。

主な代謝の違いとしては下記の通り。

  • iPS細胞
    ブドウ糖とグルタミンを代謝して栄養を得る
  • 心筋細胞
    乳酸も代謝して栄養を得ることができる

上記の違いを利用して、ブドウ糖とグルタミンを除去し、乳酸を加えた培地で培養することで、心筋細胞だけ栄養を得ることができて生き残ることができるというものです。(参考:PubMed_1、(参考:PubMed_2

効率的な移植の準備

iPS細胞から作製した心筋細胞を移植するときに、どれだけ良い細胞を作っても心臓に生着しないと効果は発揮されません。
トリプシンなどで単離してバラバラになった細胞をそのまま移植しても、ほぼ生着しないと言われています。(3%ぐらいしか生着しないとか)

そこで、慶応大学のチームでは心筋細胞を1000個ぐらいの塊にして移植すると、細胞が死ににくく、移植後の流出が抑制されるため生着しやすくなるとのことです。

大阪大学のチームではこの部分が「細胞シート」であるため違いが出ているところですね。

効率的な移植方法の開発

移植方法として、慶応大学のチームでは心筋細胞の塊を患部に移植するための特殊な注入針を作製したとのことです。
注入針の形状を工夫することで、細胞の塊を注入するときに心臓に針をさしても出血しにくくすることで、心臓へのダメージや出血による細胞の流出を抑制することに成功したとのことです。

患者への負担が軽減されたり、生着効率が上昇すると効果が上がるだけでなくコストも低下するので期待が大きいですね。

心筋細胞の移植の不整脈の問題

心臓へ心筋細胞を移植すると不整脈が生じることが、心臓の再生医療の中で懸念されている大きな課題の一つだそうです。
サルなどの大動物の実験では、心臓に心筋細胞を移植すると、移植後1ヶ月までの期間で不整脈が生じる報告があるとのことです。(参考:PubMed
また、一部の不整脈では不整脈が見られたものの、その後移植した心筋細胞と心臓の拍動のリズムが同調するという報告もあるそうです。

慶応大学のチームでは、移植する心筋細胞は心室筋の細胞のみであるとこや、心筋細胞の自律拍動も30回/分程度であることから、不整脈が起こりにくいと考えているとのことです。

臨床研究への応用

慶應大学のチームが使用する心筋細胞は、京都大学のiPS細胞研究所(CiRA)のiPS細胞ストックプロジェクトの細胞を使って臨床研究の準備を進めているとのことです。
iPS細胞ストックを使用するメリットは、こちらの記事でも少し触れたように、免疫拒絶を受けにくいため、多くの患者に適合する細胞が作製できることであります。

上記の技術を使って、臨床研究ではまずは安全性と有効性の確認から行っていくとのことです。

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思ったこととか考えたこととか

慶応大学のチームでは、細胞から移植の方法までを通して、主に1つのチームで全て取り組んでいるのがすごいと思いました。
iPS細胞の純化の方法についても、代謝の仕組みを上手く利用して、相当スマートな方法だなと感動しました。

一方で、細胞を球のような塊で移植することについて、記事中では問題ないと述べられていました。
しかし、心臓の構造は細胞の伸びる方向性が決まっていたり、構造が決まっていることで、収縮する力を生み出したり、電気信号を伝達したりする重要な機能を発現していると言われています。
これを踏まえると、心臓の本来の構造を無視して、塊をむやみやたらに移植するのは本当に安全と言えるのだろうかという点は素人ながら疑問に感じる部分です。

心筋細胞の移植と言えば、もう一つ大阪大学のチームが有名ですね。
こちらは心筋細胞をシート状にして心臓に貼り付ける形で移植する戦略を取っています。
こちらの方は臨床研究まで進んでいます。
ただし、移植した心筋細胞が、心臓の動きを補助するというよりは、移植した細胞から分泌される栄養素が弱くなった心臓の働きを元気にさせることで、心不全を改善していると考えられている。(パラクリン効果)

これに対して、心筋を球状の塊にして移植する慶応大学のチームは移植した心筋細胞が、心臓の働きを補強することを目的としているとのことです。

球とシートというそれぞれ2つの形で競争していてとても面白いなと思います。
とはいうものの、もう少し協力して進めていけばいいのになとも感じます。
確かに色々な技術があることは大事だと思いますが、この2つのチームは独立しすぎているように感じて、もう少し共有しながら進めると発展が早くなるのではないかと思うところもあります。

慶応大学のチームを率いている福田先生が再生医療の研究を始められたのが1995年とのことで、約25年間も再生医療研究に従事されているとのことです。
ものすごく長い歳月をかけてまだまだこれからも続けられるとのことで、すごい執念と熱量を感じますね。
これにはただただ敬服するばかりです。

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