本記事では「論文や発表で使える引用の効果的な書き方」について私が研究活動を通して学んだことをアウトプットします。
- なぜ引用文献をつけるの?
- 引用文献はどんなものを選択したら良いの?
- 引用文献はどうやって見つける?
という疑問について参考になれば幸いです。
引用文献の書き方というよりは、引用文献を用いる理由、良い引用文献の見つけ方について私の経験をもとに考えていきます。
引用がしっかりできていると
- 自分の意見をはっきりさせることができる。
- 自分の意見に根拠をつけることで説得力がつく。
- その分野をちゃんと理解していると評価される。
という3つの恩恵が得られます。
引用の基礎
引用の種類で代表的なものは下記の3つでしょうか。
- 直接引用
文章を一言一句そのまま使う。 - 間接引用
他人の文章を自分の言葉で表現する。論文はこれが多いです。 - 要約
言葉通り、要点をまとめて表記する。
完全に教科書レベルなことや自明な事については引用は不要とされていますが、ついている場合もあったり、人によるところが大きい気がします。
私(再生医療系の研究者)が読むときは、生体の臓器や組織の構造なんかは引用してくれてるとありがたいと感じることが多いです。
今回は特に論文で使われることが多い「間接引用」について掘り下げていきます。
なぜ引用するのか?
引用をする目的は3つあると考えます。
- 意見を借りる
- 実験方法を借りる
- 説得力をつける
上記の3つである理由は、引用をしっかりすることで
「通説・他人の意見を明記することで自分の意見を強調する」
「自分の意見に根拠つけることで説得力が増す」
という恩恵を受けることができると考えます。
意見を借りる
自分が取り組むテーマについては、自分がテーマを作った場合でない限りは先行研究者がいます。すでにテーマに取り組んで結果とともに意見を提示しています。
自分はこのテーマよりも新しいことや別の視点での取り組みをすることになりますが、このときに先行研究があると実はものすごく研究が行いやすいです。
自分の研究結果が先行研究と似た傾向になった場合、先行研究と自分の研究で共通するところはやはり確からしいということが言えます。
逆に、先行研究と全く異なる結果が出た時には、先行研究と差別化したところがとても重要であるという考察ができたりします。
この様に先に発表された意見を借りることによって、自分の研究で伝えたい意見をはっきりさせたり、自分の意見を補強したりすることができます。
実験方法を借りる
実験に使用した方法について、自分が考えた方法出ないならば、新規性がないことを主張するために「◯◯の論文を参考にして××を行った」と書きます。これの良いところは実験方法の妥当性については先行研究で証明されているので、そこに割く労力を減らすことができます。
逆に自分が考えた方法であるならば、そこが新規性になるのでアピールするポイントになると思います。ただし、実験方法が本当に妥当性があるものなのかを証明するための検証が必要になってきたりするので、その分の労力は覚悟が必要です。
先述した様に新規性があることはアピールポイントになるので、ただ検証するためだけの労力をかけるのではなく、論文のポイントになる様に工夫して書くと労力が報われます。
説得力をつける
論文や発表で主に言いたい主張として「新しいことを見つけた」だったり「◯◯という課題を解決する」だと思います。では何を持って「新しいこと」だったり「本当に解決するべき課題」なのでしょうか。
自分がものすごく影響力のあるその分野の権威であれば言葉だけで十分なのかもしれません。しかし、そんな権威ではないので言葉に根拠とつける必要があります。
その根拠となるのが引用になります。
「新しいことを見つけた」を主張したければ、これまでに何がわかっている、何がわかっていないということを主張する文献を引用することで、わかっていることわかっていないことをはっきりさせます。そうすると、自分のテーマが本当に新しいことに分類されているのかという判断を相手にさせることができます。
「◯◯という課題を解決する」を主張する場合は、それが本当に問題として認識されていることを示す文献を引用する必要があります。自分だけが思っている問題はただのエゴみたいなものですね。
問題提起をしている文献は、必ず問題である根拠となるデータを示しています。
権威のある人の主張も、問題提起するときは必ず根拠を示しています。つまり、その人が使っている根拠を借りて自分の主張に入れることで、自分が解決したい課題が「本当に解決するべき課題」である説得力を持たせることができます。
何を引用したらいいのか?
引用すると効果的な文献として、下記の3つが考えられます。
- その主張(研究)の原点となる文献
- 自分のテーマの分岐点となってきた重要な文献
- 最新の文献
これらの文献を引用できれば、その分野をちゃんと勉強して理解していると評価してもらうことができます。
その主張(研究)の原点となる文献
これは本当に原点となる古いものが良いでしょう。
提唱した人に経緯を払うという意味もありますし、本当に歴史を知っているよというアピールの意味もあります。
何より大事なことが、自分のテーマの新規性を示す上で重要な歴史を示すのに大切なスタート地点を示すためです。
例えば、細胞を使って臓器の一部の組織を作ることを組織工学と言いますが、これはLangerとVacantiという2人の研究者が1993年に提唱したものです(Tissu Engineering, Science, https://science.sciencemag.org/content/260/5110/920.long)。
このスタート地点を示さずして、組織工学の発展の中で自分のテーマが革新的だという説得力を持たせられるでしょうか?
自分のテーマの分岐点となってきた重要な文献
上記でも記述しましたが、自分のテーマが新しいことを示す上でこれまでその分野が「どの様に発展してきたか」を示すことは重要です。
とは言っても、全てを事細かに記すことは無駄なので本当に重要な文献を数報示す程度で良いと思います。
これを示すと、これまでどの様な事がわからなかったのか、課題だったのか、それを明らかにしたり解決するためにどの様な手段が取られてきたのかを示すことができます。
そして、それでもやはりまだまだわからないこと、解決できていないことがあることをはっきりさせることができます。
最新の文献
原点、分岐点を示したあとは最後に最新の文献を示すことが必要です。
分岐点ではこれまでに課題だったこと、解決されてきたことを示しましたが、最新の文献では、現在における課題をはっきりさせることが目的です。
このテーマは今どこまできているのか、それでもなおまだわかっていないことは何なのかを示すことができれば、自分の研究によって示したいことは本当に新しいことなのかどうか納得してもらいやすくなりますよね。
引用文献の探し方
これまでなぜ引用し、何を引用するのかを示しました。
最後に、その引用は「どうやって見つけてくるのか」について掘り下げます。
方法は次の3つです。
- 文献を読む
- 教科書を読む
- 学会発表で偉い先生の引用を参考にする
文献を読む
とにかくたくさん読みましょう。読めば読んだ分だけ引き出しが増えます。
読む中でも、冒頭のイントロダクションの部分では、問題提起などの説得力をつけるための文献が見つけられると思います。
後半のディスカッションの部分では、自分の主張を強調、補強するための意見を借りる文献が見つけやすいと思います。
さらに、レビュー論文などの総括的にまとめられている文献では、テーマについての歴史をまとめてくれているので、良い引用文献の宝庫だと思います。
教科書を読む
教科書レベルのことは引用しなくても良いと言われていますが、その教科書にも実は引用がしっかりと使われています。
例えば、「細胞の分子生物学」という生物系御用達の教科書でも、各章の最後に「文献」というページに引用がまとめられています。
基礎的なことだけど、「ここが重要」ということを強調したい場合、この教科書にも使われている引用が本当に役に立ちました。
学会発表で偉い先生の引用を参考にする
偉い先生は、なぜそうなりえたかというと、周りから認められているからというのが大きいと思います。それは業績が十分というのもありますが、話がしっかりしているからというのもあります。
どれだけ業績があっても、正しくない歴史認識していたり、根拠の無いような話をしている人は信用してもらえませんよね。
実際に講演を聞いてみると、しっかり重要な文献を引用されていて、話にとても説得力があります。
学会に参加したとき、偉い先生の講演では内容もそうですが、どの文献を引用しているのかということも大切だと思います。
全力で引用文献をメモし、帰ったら全部引いて読みましょう。私は学会で得られる引用文献こそ最大のお土産であると考えています。
学部生は無料で参加できる学会があるので、そのような学会に参加し、是非聞いてみてはいかがでしょうか。
まとめ
以上が「論文や発表で使える引用の効果的な書き方」について私が研究活動を通して学んだことのアウトプットでした。
- なぜ引用文献をつけるの?
- 引用文献はどんなものを選択したら良いの?
- 引用文献はどうやって見つける?
という疑問について
- 自分の意見をはっきりさせ、根拠を持たせる
- 新規性や重要性を明確にする
- 文献・教科書を読み、偉い先生の講演を聞く
がまとめになります。
引用が効果的にしっかりできていれば、
- 自分の意見をはっきりさせることができる
- 自分の意見に根拠をつけることで説得力がつく
- その分野をちゃんと理解していると評価される
という恩恵が得られると思います。
ただ何となく付いているように感じる人も多いと思いますが、しっかりみている人はみているし、評価する人ほどここをみているように感じます。(論文の査読者とか発表の審査員とか…)
自身の主張の説得力にも、評価にも繋がる大事なところだと思うので、是非引用に対しても意識を向けてみてはいかがでしょうか。
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