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【細胞培養】培地の種類と組成と細胞への影響のまとめ【再生医療のアトリエ】

再生医療のアトリエ
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本記事では、「培地の種類と組成と細胞への影響」についてまとめていきます。

培地(培養液)について、

  • 培地について概要
  • 培地の種類と組成
  • 培地が違うと細胞にどのような影響が出るのか

の項目についてまとめることで培地(培養液)についておさらいします。

培地は細胞培養を行う上で欠かすことができない基礎的な材料です。
もちろん再生医療・組織工学の研究を発展させるためにも重要なもので、「いかに低コストで大量に細胞を増やすか」「安全性を確保できるか」といった点で様々な研究が取り組まれ、培地の開発が進められています。

近年注目されている培養肉の分野においても同様で、培地は基礎的な技術ではあるものの、これから更に注目されると思うのでそのための基礎知識をおさらいしていきます。

「再生医療のアトリエ」は私が大好きな研究である、再生医療・組織工学という人工的に臓器を作る研究について「とにかく楽しく、わかりやすく」をモットーに叡智を綴る場所です。
よかったところ、わかりにくいところ、もっと知りたいところなどコメントいただけると嬉しいです。

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培地(培養液)とは

生命現象の解明や薬の開発、再生医療の実現のためには細胞培養という技術が必要です。

細胞培養には

  • 栄養素の供給
  • 酸素や二酸化炭素
  • 温度
  • 細胞の足場
  • 培養容器

が主に重要な要素となります。

この中で細胞に対して、栄養素の供給に必要不可欠な培地について詳しくおさらいをしていきます。

動物細胞の培養が始まったのが、1907年に Harrisonがカエルの神経組織をリンパ液中で培養することで、初めて体外での細胞の培養に成功したと言われています。

ここから様々な細胞をより効率的に培養するために汎用性のある培地の開発がされてきました。
1955年にEagleがEagle’s MEM (minimum essential medium)という培養液を開発し、現在もMEMとして知られ使われることがある有名な培地です。
このように、各種アミノ酸、無機塩、ビタミン、糖を含む組成が明らかになっている細胞の培養液を合成培地と呼ばれています。
そして、ここに血清を添加することで多くの細胞の培養が可能となります。

MEM培地に続いて、RPMI-1640DMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s MEM)が開発されてきました。
これらはMEMよりもさらにアミノ酸やビタミンが多く添加されており、栄養が豊富になっていることが特徴となっています。

google scholarで”culture medium”について調べると、in vitroで使用されている培地はDMEM、RPMI1640、MEM、αMEM、M199が全体の90%ぐらいを占めているとのことで、これらの培地が汎用培地と言われる所以がよくわかりますね。(McKee TJ et al. Am J Physiol Cell Physiol. 2017.)

培地に含まれる成分

次に、培地に添加されている成分のうち、電解質やビタミンの他の代表的な成分とその役割について見ていきます。

グルタミン

グルタミンは細胞の増殖に必須の成分の一つです。
非必須アミノ酸であるものの、各種の動物細胞を培養するための培地に必須の成分とされています。

代表的な役割は下記のものが挙げられます

  • タンパク質の構成成分
  • 窒素と炭素の供給
  • 遊離アンモニアの除去
  • ヌクレオチドの合成素材
  • エネルギー源

グルコース

グルコースは細胞の主要なエネルギー源の一つです。
DMEMなどではグルコース濃度が高いものや低いものがあります。
多くの種類の細胞培養では低濃度のグルコースを用いますが、エネルギー要求度が高いような細胞(筋肉系、幹細胞など)では高濃度のものを使用しないとエネルギー供給が間に合わないため、使い分ける必要があると言われています。

低濃度に適した細胞で高濃度のグルコース培地を用いると、高血糖のような状態になるので注意が必要ともされています。

炭酸水素ナトリウム

CO2条件に置くと、炭酸ガスが培地に溶解し、培地中のpHを調整する役割を持ちます。
5-10 %のCO2条件下においたとき、pHが7.4付近になるように添加されています。

また、炭酸水素イオンによる緩衝作用は血液の緩衝作用と似ているため、生理的条件に近いとされていることから多く使用されているようです。

空気中に放置すると、溶解していたCO2が抜けるため、pHが上昇します。
CO2インキュベーターを用いて5 %CO2環境で細胞を培養する理由はこのためですね。

5 %CO2の環境を維持できない空気中で長時間の実験をする際などはHEPESなどの緩衝作用が強いものを用いる選択肢があります。

フェノールレッド

フェノールレッドはpH指示薬の一つで、酸性で黄色、中性で赤色、アルカリ性で赤紫色を呈します。
細胞が増殖すると、乳酸などの有機酸が排出されるため、pHが低下することで培地の色(フェノールレッドの色)が黄色くなります。
培地の栄養の消費や老廃物の排出などの目安として判断することができます。

色が変わってしまうまで放置すると、通常と環境が異なる環境下になってしまっていることなどが考えられるため、色が変わる前に培地交換をするべきという意見もあるそうです。

抗生物質

培地には細菌の汚染を防ぐために、抗生物質を添加するケースが多いです。
抗生物質は微生物に対して作用し、その発育を阻害する物質です。ペニシリンなどが有名ですね。

微生物や細菌は動物細胞よりもはるかに増殖が早く、これらが培地に混入すると目的の細胞以外のものに置き換わってしまいます。
この状態で評価や測定をすると、目的の細胞ではなく、微生物や細菌を調べたことになってしまったり、微生物や細菌が細胞に影響を与えるため正しい測定結果が得られないなどの問題があり、細胞培養においては特に注意する必要がある部分です。

培地に添加するものとして、ペニシリンやストレプトマイシンなどが有名ですね。
主な作用は細胞壁合成の阻害、タンパク質合成阻害、核酸代謝の阻害などがあります。
要は混入しても微生物や細菌が増えないようにすれば良いということです。

主な抗生物質と作用

  • タンパク質合成阻害
    ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、G-418、ブラストサイジン
  • DNA複製阻害
    マイトマイシンC
  • 細胞膜の機能・合成阻害
    アムホテリシンB、ペニシリン

血清

基本的にはMEM、DMEM、RPMIなどの培地を用いて細胞を培養する際には5-10 %程度の血清の添加が必要になります。
血清は細胞の増殖や機能発現に大きく影響を与える重要な添加物です。

用いられる血清の種類は主にウシ、ウマ、ヒトのものが使用されています。

通常の細胞培養ではウシの血清が用いられています。
ウシの血清と言ってもその中で更に種類があり、

  • ウシ胎児血清(Fetal Calf Serum:FSC、Fetal Bovine Serum:FBS)
  • ウシ新生児血清(New-born Carf Serum)
  • コウシ血清(Calf Serum)

などの種類があります。
よくFBSと言われているのがウシ胎児血清のことで、細胞培養では最も良く使われています。

血清の役割は下記のようにかなり多様です。

  • 栄養の供給
  • 栄養成分の輸送担体タンパクの供給
  • ペプチド性ホルモンなどの供給による細胞増殖促進
  • 培地中の毒性物質の吸着均衡化
  • 細胞接着性タンパク質の供給
  • 培地へのpH緩衝成分の供給
  • 培地浸透圧、粘度、拡散の調節
  • タンパク質分解酵素の阻害

血清は非常に多種類の栄養素が含まれており、組成が複雑であると言われています。
また、同じウシ胎児血清(FBS)の製品を用いても、ロットによる組成の差が大きく、ロットが異なるだけで再現性が取れないこともあります。
また、そのロットでしか実験が成り立たないものもあるなど、細胞培養に重要な添加物である反面、厄介な性質を持っています。

バイオ系の実験が他施設でなかなか再現できないと言われている原因の一つがこれですね。
実験前や血清の購入の際には血清のロットチェック(細胞が増殖するか、以前使用していた血清と類似の増殖を示すかなど)をしっかりと行うことが重要とされています。

無血清培地

上記項目では培地の成分の一つとして、血清についてまとめました。
血清は培養細胞にとって重要な添加物である一方で、

  • 高価であること
  • ロットによる性能のばらつき
  • 安全性(感染症など)

などの課題があります。

こういった課題を解決するために作られたのが無血清培地と言われるものです。

血清の組成を解析することで、血清中に含まれる細胞増殖に必要なホルモンや増殖因子といった成分を特定し、それを培地に加えることで血清を用いなくても細胞が培養できる培地が無血清培地です。

無血清培地を用いることで、

  • 血清のロットの影響を受けなくなる
  • 血清由来のウイルス、細菌などの感染リスクの減少

といったメリットがあります。

血清は動物由来の成分を用いているため、再生医療などの体内に入れる細胞を培養する際には、無血清培地を始めとした動物成分を用いないゼノフリーというものが求められています。
また、ロット差による不安定さを解消し、安定して均一に安全に細胞を培養することが再生医療を実現するための一つの鍵でもあります。

さらに、近年は動物愛護の観点からも血清の使用を問題視する声があるようで、これから徐々に無血清培地が主になっていくのかもしれません。

培地が違うと細胞にどのような影響が出るのか

生体の血漿と培地の組成の電解質、グルコース濃度を比較し、組成が違うことによって細胞にどのような影響を与えるかを調べた面白い論文があります。(参考:McKee TJ et al. Am J Physiol Cell Physiol. 2017.)

ヒトの血漿、脳脊髄液、マウス血漿と、DMEM、RPMI1640、MEM、M199の培地の電解質とグルコースを比較してみると、培地は完全には生体の成分濃度を再現していないという点が興味深いです。

生体の成分を完全に模倣すれば良いというわけではないようですね。

これまでに様々な培地が開発されていて、使い分けされている中で、その組成が違うと細胞にどのような影響があるのか?についてまとめていきます。

グルコース濃度

血中グルコース濃度は11μM以上になると糖尿病の状態に近い状態と言われています。
培養細胞においても、高いグルコース濃度の培養液を用いることで、

  • 遺伝子発現
  • タンパク質産生
  • 機能変化
  • 酸化ストレスの増加
  • 浸透圧ストレスの増加

といった影響があるようです。

グルコース濃度が高い培地(DMEM High glucoseなど)を用いられることがありますが、この培地でないと活性が保つことができないような栄養要求度の高い細胞以外の細胞の培養では気をつけないといけない点ですね。

リン酸濃度

リン酸濃度が1.45 mMを超えると、長期合併症が起こると言われています。

  • 石灰化の制御
  • 副甲状腺ホルモンと線維芽細胞増殖因子などのホルモンの効果

に影響が出るとのことです。

また、血管内皮細胞や破骨細胞を用いた実験では、

  • 分化や機能阻害
  • 形質転換による増殖機能の増加

などの影響があるとの報告もあるそうです。

特に、RPMI1640はリン酸濃度が5.63 mMと生体中の約4倍も高いため、上記の点に気をつける必要があるとのことです。

カルシウム濃度

カルシウム濃度が1.17 mMを下回ると、低カルシウム血症と言われています。
低カルシウム血症の臨床的な症状として

  • 精神神経症状
  • 神経筋症状
  • 心血管症状

が起こるそうです。

in vitroでの低カルシウムによる影響では

  • カルシウム恒常性のホルモン調節
  • 神経、筋肉への影響

が報告されているとのことです。

RPMI1640はカルシウム濃度が0.42 mMと低カルシウム血症を満たす濃度となっているため、上記を考慮して使用する必要があります。

マグネシウム濃度

血漿中のマグネシウム濃度が0.5 mMを下回ると、低マグネシウム血症の状態とされます。

  • 神経筋の過興奮性
  • 無気力、せん妄などの精神神経障害

が起こるとのことです。

マグネシウムの欠乏により、神経系に対する影響以外にも

  • 血管
  • 免疫
  • 結合組織
  • 筋肉
  • ホルモン調節

などにも影響が出ると言われているようです。

0.4 mM以下のマグネシウム濃度において、動脈筋の収縮、破骨細胞分化の促進、内皮細胞の酸化障害が起こるという報告もあります。

RPMI1640ではマグネシウム濃度が0.04 mMと極端に低いことから、上記のことに留意して使用する必要があるようですね。

上記のように培地の種類によって組成濃度は生体と異なるようです。
また、その事による悪影響が生じる可能性もあるとのことです。

培地の開発の背景として、in vitroという生体とは異なる培養皿上での環境で、細胞が目的の機能を発現するように調整されてきたことがあり、生体とずれが生じることは不思議ではないのかもしれません。

しかし、それぞれ目的の細胞に合わせて調整された成分であるため、汎用的な培地といえど、細胞の種類が変われば適用できない可能性もありますし、実は適用できていたと思っていた細胞でも十分に機能が発現できていなかった可能性もあることは注意が必要ですね。

それにしてもRPMI1640はかなり尖った組成をしていて驚きです。

主な培地の組成

下記に代表的な培地であるMEM、DMEM、RPMI1640の組成についての比較をまとめます。

実際の製品では、下記の成分から添加していないもの、+αで添加されているものがあり、培地購入の際には気をつけたいところです。

(私が培養を始めたての頃、間違えてL-グルタミン不含培地を購入してしまい、細胞が増えなくて困った失敗をしたのはここだけの話です。)

成分 [g/L]MEMDMEMRPMI1640
Ca(NO3)20.1
CaCl20.20.2
Fe(NO3)3・9H2O0.0001
MgSO40.097670.097670.04884
KCl0.40.40.4
NaHCO32.23.72
NaCl6.86.46
NaH2PO40.1220.109
Na2HPO40.8
L-Arginine・HCl0.1260.0840.2
L-Asparagine0.05
L-Aspartic acid0.02
L-Cystine・2HCl0.03130.06260.0652
L-Glutamate0.02
L-Glutamine0.2920.5840.3
Glycine0.030.01
L-Histidine・HCl・H2O0.0420.042
L-Histidine0.015
L-Hydroxyproline0.02
L-Isoleucine0.0520.1050.05
L-Leucine0.0520.1050.05
L-Lysine・HCl0.07250.1460.04
L-Methionine0.0150.030.015
L-Phenylalanine0.0320.0660.015
L-Proline0.02
L-Serine0.0420.03
L-Threonine0.0480.0950.02
L-Tryptophan0.010.0160.005
L-Tyrosine・2Na・2H2O0.05190.103790.02883
L-Valine0.0460.0940.02
D-Biotin0.0002
Choline Chloride0.0010.0040.003
Folate0.0010.0040.001
myo-Inositol0.0020.00720.035
Niacinamide0.0010.0040.001
p-Aminobenzoic Acid0.001
D-Pantothenic Acid
Hemicalcium Salt
0.0010.0040.00025
Pyridoxal・HCl0.001
Pyridoxine・HCl0.004040.001
Riboflavin0.00010.00040.0002
Thiamin・HCl0.0010.0040.001
Vitamin B120.000005
D-Glucose1.01.02.0
Phenol Red・Na0.00110.01590.0053
Pyruvic acid・Na0.11
(参考:Sigma-Aldrich (MEM)、Sigma-Aldrich (DMEM)、Sigma-Aldrich (RPMI1640))
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あとがき

以上、「培地の種類と組成と細胞への影響」についてまとめた記事でした。

培地(培養液)について、

  • 培地について概要
  • 培地の種類と組成
  • 培地が違うと細胞にどのような影響が出るのか

の項目についてまとめることで培地(培養液)についておさらいしました。

培地は普段何気なくこの細胞はこの培地と使用しているありふれたものではありますが、ちょっとした組成の違いや、添加する血清のロットによって実験に重大な影響を及ぼすものでもあります。

現在の再生医療や創薬研究で用いられている細胞は、まだ十分に機能が発現できていないことが課題であるとも言われており、まだまだ培地の研究の発展が必要不可欠であるように感じます。

とは言いながらも培地のユーザーとしては、深入りするには細胞の代謝の理解など複雑すぎる研究分野でもあるので、せめて「自分が実験に使う培地はこれで適切か?」「血清のロットチェックは問題ないか?」などの最低限は気をつけたいところです。

「再生医療のアトリエ」は私が大好きな研究である、再生医療・組織工学という人工的に臓器を作る研究について「とにかく楽しく、わかりやすく」をモットーに叡智を綴る場所です。
よかったところ、わかりにくいところ、もっと知りたいこと、間違えているところなどありましたらコメントしていただけると嬉しいです。

参考資料

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