今週気になった論文や研究の話題についてのアウトプットです。
主に再生医療・組織工学、培養肉、AIの研究が中心。
今週(2023.11.20〜26)気になった研究・話題は以下の通り
- オープン型マイクロ流路でシングルセルを分離する研究
- ベイズ統計学習で細胞の力を高精度に測定する研究
- 富士フイルムのAI技術で膵臓がんを検出する
オープン型マイクロ流路でシングルセルを分離する研究
マイクロ流路を使って細胞を選別する技術について、上部が開放系になっている特別な流路を使って選別した細胞をピッキングできる研究が面白かったです。(日本の研究.com)
シングルセル解析の注目とともに、マイクロ流路を使った細胞を選別するする技術も発展してきたように思います。
マイクロ流路で細胞を流してトラップする研究を目にしますが、これまでの流路は入り口と出口以外は閉じた系のものが殆どで、細胞をトラップしたは良いものの、どうやって効率的に取り出すかが課題でした。
それを解決したのがこの研究(PubMed)で、
- マイクロ流路をPDMSというシリコーン樹脂で作製
- 流路内部を親水化する
- 液滴を垂らし親水化した流路に水が流れ込むか確認
- ビーズや細胞を流し、トラップできるかチェック
- 自動のピペット装置でトラップした細胞を回収
という内容で、流路作製から細胞の回収までを行っていました。
流路内部を親水化することによって、液滴を流路に垂らすとポンプも使うことなく自動的に液が流路内にきれいに流れ込んでいたのが驚きでした。
これまでマイクロ流路に液体を流すときはポンプが必要になり、マイクロと言うわりに意外とスケールの大きな装置でしたが、この研究ではポンプが要らないためスケールダウンへの貢献が大きいと感じます。
親水化処理ではPluronic F-68という界面活性剤とポリビニルアルコール(PVA)を使って検討していましたが、接触角は同じ親水具合なのにF-68の方が流路への液の流入が良いという点が興味深いですね。
考察では表面の分子の構造による影響とのことで、高分子材料の面白さを感じます。
開放系の流路なのに細胞がしっかり流れ、流路中にトラップされていることももちろんですが、電動ピペット装置で細胞を回収しているところが非常に画期的でした。
トラップした細胞を回収できなければトラップしたところで…となってしまいますからね。
既存の様々なデザインの流路にも対応できるようで、非常に汎用性の高い研究のように感じました。
ベイズ統計学習で細胞の力を高精度に測定する研究
ベイズ統計学習という手法を使い、基板の変形と細胞の形から高精度で細胞の力を測定する研究が面白かったです。(日本の研究.com)
細胞の力の測定では、よくビーズを混ぜた柔らかい基質やピラー構造を持つ基板を使ってその変位量から推定するんですが、実はこれ細胞ではなく基板の応力を測ってるそうなんですね。
ここについては実際に実験をする中で、正確に細胞の力を測れているのか?ゲル(基板)の方を測っているのではないか?と疑問でしたが、どうもそういうことだったようです。
この研究(ScienceDirect)は、
ハイドロゲルの中に蛍光ビーズを混ぜ、その上で細胞を培養。接着した細胞が力を生み出した際に、ゲルを変形させ、ビーズが動いた距離を測定する牽引力顕微鏡を用いた力の測定方法に対して、ベイズ統計学習という手法を用いて力の推定を行ってみたという内容です。
従来の推定アルゴリズム(Ridge 回帰、Lasso 回帰など)は細胞の力を考慮した推定ができていなかったようです。
対して、ベイズ統計学習を用いて、基板の変形量と細胞の形状を組み合わせた推定を行うことで、従来よりも高精度に細胞の力が推定できるようになったとのことです。
ただ、この方法も万能ではないようで、
- 細胞の形が丸に近い
- 細胞が伸展した足の輪郭が正確に見えない
という状態だと測定精度が向上しなかったり、誤った推定になってしまうそうです。
とは言っても、これまで正確に測ることができなかった細胞の力を正確に測れるようになったこの研究は科学の進歩を感じる研究だと思います。
富士フイルムのAI技術で膵臓がんを検出する
がんという病気はなかなか厄介なもので、診断された頃にはすでに遅かったなんてこともあります。
私の身内も発見が遅れて若くして人生を終えたという経験があり、この恐ろしさを近くで感じました。
がんの問題は発見が遅れるほど治療が大変になるということで、早期に発見することができれば予後が大きく改善できるそうです。
そんな背景のなか、富士フイルムと神戸大学がAIを使って非造影のCT画像から膵臓がんを検出する技術を開発しています。(日本の研究.com)
膵臓がんは初期の自覚症状が出にくく、早期発見が難しい病気と言われています。
自覚症状を感じた頃にはすでに周囲に転移しているほど進行している状態になっており、発見してから5年後の生存率は12.5%しかないそうです。
更に厄介なことに、膵臓は構造が複雑で発見しにくいことと、早期の段階で非造影の検査で発見する技術がまだないことが問題でした。
このプレスでは
- 約1,000症例の非造影CT画像をAIに学習
- 膵臓がんの直接所見である腫瘤、間接所見である膵萎縮・膵管拡張が検出できた
- コントラストが低く不明瞭な非造影CT画像にも対応
ということが発表されており、
人間ドックなどで活用され、初期の段階での発見が期待できそうとのことです。
今回のニュースは深刻な膵臓がんの診断を大きく変えることができるのでは…?
と感じるほどすごいニュースのように思いました。
今回の記事を見つけて、富士フイルムのAI技術はこんなに発展しているのかと思い調べてみると、富士フイルムはREiLIというオリジナルのAI技術ブランドを持っているそうです。
元々画像処理が強かったこともあり、自分たちがもつ画像を扱う技術とAIとの組み合わせは非常に相性が良かったんですね。
このREiLIは2018年頃に発表されていたそうで、今更凄さを認知している私は少し反省しなければいけませんね。(参考)
もっとアンテナを張り巡らせなければ…
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