腎臓の基礎から疾患とその治療法の開発を探る【実験医学2022年5月号感想】

Science Memo
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本記事では「実験医学 2022年5月号」を読んだ感想をアウトプットします。
「実験医学」は最新の生命科学、医学の情報がわかりやすくまとめられた雑誌です。
おそらくバイオ系医学系の研究室には常備されていると言っても過言ではないくらい有名な雑誌です。

2022年5月号の実験医学では、

  • 腎臓の疾患の原因やその治療法開発についての特集
  • 前線で活躍する若手PIが本音で語るサイエンス
  • mRNA医薬で体内でCAR-Tを作り、心疾患を治す研究

などなど、今月号も大ボリュームで、お腹いっぱいになりながらも、たくさん学びました。

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「実験医学 2022年5月号」を読んだきっかけ

大学から離れて、バイオ系の研究の世界の情報にアクセスするためのツールとして購読する価値が大きいなと思い、毎月購読しています。
普段触れることが少ない分野について触れるきっかけになる、読み易いけれど読みごたえがある素晴らしい雑誌ですね。

前回の感想記事はこちら

2022年5月号で特に私自身面白いと思ったのが下記の内容です。

  • 腎臓の疾患の原因やその治療法開発についての特集
  • 前線で活躍する若手PIが本音で語るサイエンス
  • mRNA医薬で体内でCAR-Tを作り、心疾患を治す研究

などなど、今月号もとても面白く、勉強になる記事がたくさんありました。

「実験医学 2022年5月号」を読んだ感想

腎臓の疾患の原因やその治療法開発についての特集

特集のテーマは「腎疾患の分子標的を探れ 代謝・ストレス応答・線維化を鍵とした病態解明」でした。

腎臓は体内の不純物を取り除く、血液のろ過装置のような機能などを持つ臓器です。
腎臓はとても再生しにくい臓器のため、生活習慣病やその他原因により腎臓を悪くすると、透析による処置や腎移植を受けることになるので、恐ろしいです。

この特集では、腎臓疾患がいかに起こり、どう治すことができるかの研究について、

  • 腎臓の構造と特性
  • 腎臓疾患の種類とメカニズム
  • 腎臓機能を生体外で再現するorgan-on-a-chip

など、基礎から応用までがっつり解説されていました。

腎臓の患者数は世界で8億5000万人もおり、2040年には死因の第5位になると予想されるほど大規模のようです。
腎臓疾患により、透析を受けたりする人の医療費は1人あたり年間400〜1100万円と医療費の圧迫にもつながっているとのこと。
また透析などによる医療廃棄物の膨大な量も課題とされています。

腎臓の構造的なところでも、尿素などの毒性のあるものを作るのに毒性に弱く、心臓と同じぐらい酸素要求度が高い臓器なのに酸素供給や効率よく使う構造になっていないなど、よく成り立っているなと驚くほど繊細な臓器でした。

これらの理由から、腎臓疾患の重症化をいかに防ぐかが鍵になっているとのことです。
そのためにも、腎臓疾患のメカニズムを明らかにすることで、有効な治療薬の開発につなげることが大切です。

この特集では、腎臓疾患の中でも

  • 老化と線維化
  • エネルギー代謝障害
  • オルガネラストレス
  • 酸化ストレス
  • エピジェネティクス
  • 糖尿病性腎疾患

各々の詳細についてはぜひ雑誌を手にとって読んでみてください。

それぞれの腎疾患の原因について、基礎的な観点からメカニズムを明らかにすることで、その対処法を特定し、治療薬として期待されるものが開発されてきているとのことです。

特に糖尿病による腎疾患については透析原因の主たるものでありながら、有効な治療法がなかったですが、SGLT2阻害薬というものが有効そうとのことが明らかになってきており、治療の革新が起きているそうです。

この特集で個人的に特に気になったのが腎臓モデルとして注目されている「organ-on-a-chip」についての記事です。
自分がin vitroでの組織構築の研究に携わっていたこともあってかなり興味深く読みました。

organ-on-a-chipなどの生体外で組織を再現する技術は従来の平面培養よりも本来の臓器に近い機能を発現するとされています。
動物実験や平面培養ではできなかった、非臨床試験での腎臓への薬の影響をより正確に調べることができるのではと期待されています。

実際にこのorgan-on-a-chipでどこまでできているかが解説されていました。
現在のところ、尿細管と血管が並ぶような構造を再現することで、腎臓の機能の一つである物質の交換などについて評価できるようになっているとのことです。

またorgan-on-a-chipの製品化についての取り組みも進んでいるようです。
欧米がかなりリードしているようで、既に製薬企業が導入した例もあるとのことです。
日本もAMEDのプロジェクトでorgan-on-a-chipの実用化に向けた取り組みが進んでいるとのことで、これからに期待ですね。

前線で活躍する若手PIが本音で語るサイエンス

『6人の若手PIが本音でサイエンスを語る 「座談会前編」自分だけの突き抜けた研究を始めよう!』という記事が面白かったです。

前線で活躍されている6名の先生(川上英良先生、清光智美先生、杉村薫先生、武部貴則先生、冨樫庸介先生、茂呂和世先生)が

  • これからの鍵になる研究分野
  • 日本が抱える基礎研究が活かせない構造的問題
  • 研究の世界で生きるために身につけると良いスキル

についてそれぞれの先生の経験に基づいて議論されていました。

注目されている研究分野としては、やはりデータ解析系の分野を挙げられている先生が多かった印象です。
また、研究対象としてモデルの妥当性として、管理された中のモデルよりも、自然環境にあるようなモデルの重要性について言及されている意見についてもありました。

この意見については、複雑系でばらつきのある細胞集団の組織を扱っている私的にもかなり共感する意見でした。

日本の研究の構造的な問題としては、実用化などの出口ばかりに目が向いてしまって基礎研究がおろそかになっていることが個人的注目ポイントでした。

日本がこれまで強かった分野も、中国、シンガポール、韓国が成長してきており、日本がアジア代表として勝ち残れるかという状況にあるとのことです。
電気製品など一般的な製品においても、以前までは日本製というものはブランドであったけれど、他国の成長とともにそのブランド力は低下していることを考えると、研究だけでなく日本全体的に抱えている問題だと思います。
国の政策なのか、国民性なのか原因を特定することは難しいけれど、技術大国と言われてきた貯金が尽きて来ている印象を受けるので、物質的な資源がない日本においては日本人全員(技術を作る側も使う側も)が真剣に向き合うべきことだと思います。

また、基礎から社会実装までの中間層を担う人材やポジションの存在がいない点も課題として議論されていました。

ここについては私個人的にも非常に重要だと感じます。
大学と企業から構成された大型プロジェクトに携わる機会があり、目標は社会実装ではあったものの、大学の基礎的な考え方と、企業の実用化の考え方が衝突し、最終的にうまく行かなかった苦い経験です。
基礎と実用化の両方の言葉や立場を理解してつなげる人がいないと、研究成果が社会実装されるハードルはなかなか下がらないと肌で感じました。

研究の世界で生きるためのスキルとして、観察力、継続力、新しいことに飛び込むことなど様々なことが挙げられていました。
どれもよく耳にすることですが、耳にするからこそ誰しもが一致する意見であり、本質的なところであると思います。
独創的で斬新な意見が注目されがちだけど、やって当たり前の基礎をどれだけ突き詰められるかが生き抜くためのポイントになるのでしょう。

現在前線で活躍している若手の先生方のお話を聞く中で、研究者のロールモデルとして参考になるかもしれないと感じる記事でした。

mRNA医薬で体内でCAR-Tを作り、心疾患を治す研究

mRNA医薬を使って体内でCAR-T細胞を作り、心疾患を治療する取り組みの記事が興味深かったです。

心筋梗塞等によって線維芽細胞が異常に活性化することで生じる心筋の線維化について、これまで根本的な治療法はありませんでした。
それを、がんの治療などで大きな注目を浴びているCAR-T細胞を使って、治療しようとする驚きの研究です。

主に腫瘍を認識するように設計されて使われているCAR-T細胞を、心筋の活性化した線維芽細胞を認識・攻撃するようにして、良くない心筋線維芽細胞を除去するという考え方です。
実際にマウスモデルでの結果では、心機能の改善や組織構造的にも線維化の抑制が確認されたとのことです。

mRNAを用いて体内でCAR-T細胞を作ることで、CAR-T細胞の大きなデメリットの一つである、細胞製造のコストを削減できることが期待とのことです。

心筋の線維化については、心臓の再生医療でも注目されている疾患ではあるが、細胞を移植するだけでいいのか?線維化した部分は除去したほうがいいのか?といった議論があったように思います。
心臓という大きな力がかかり、動くような臓器で線維化部分を除去し、細胞・組織移植などを行なうことは現実ではないですね。
それに対する答えとして、現在はダイレクトリプログラミングによる線維芽細胞を心筋細胞に直接分化させる方法が有力視されていますが、これに加えて新たな選択肢ができたように感じます。

CAR-T細胞によって悪影響のある細胞を除去して、細胞・組織移植で機能を復元するというのはなかなか良いストーリーになるのではないでしょうか。

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まとめ

以上、「実験医学 2022年5月号」を読んだ感想のアウトプットでした。
2022年5月号の実験医学では、

  • 腎臓の疾患の原因やその治療法開発についての特集
  • 前線で活躍する若手PIが本音で語るサイエンス
  • mRNA医薬で体内でCAR-Tを作り、心疾患を治す研究

が個人的にとても勉強になりました。

『6人の若手PIが本音でサイエンスを語る 「座談会前編」自分だけの突き抜けた研究を始めよう!』という記事については前編とのことで、次回号の後編についても非常に気になるところです。

上記の記事内の意見でもありましたが、基礎と実用をつなぐ中間層の役割が重要という部分について、自分は応用研究を学び、現在は企業で実用について取り組む立場であり、基礎的なところが弱い部分と認識しています。
この実験医学では結構基礎的な部分を学ぶことができるので、ここで知った基礎的なことをどのように応用できるかを考えながら読むのが最近楽しく感じています。

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