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心臓は生まれた後の成長の過程で完成する研究についてのメモ

研究ライフ
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本記事では、心臓は生まれた後の成長の過程で完成する研究についてアウトプットします。
1994年のかなり古い研究なので、目新しさは少ないかもしれませんが、よくよく考えたら不思議だなと思う研究です。

概要は下記の通り

心筋細胞から心筋細胞へとイオンを輸送する役割をもつギャップ結合というタンパク質は、成長の段階では心筋細胞の周りにランダムに存在している。
しかし、大人になると、ギャップ結合は心筋細胞のある部分に密集するようになる。
この変化は生まれてから6歳になるくらいまでに起こっているということ。

不整脈に関わる大事な構造なはずなのに、完成せずに生まれてくること、完成するまでにさらに6年かかっているということがなんとも不思議です。

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この研究に興味を持った背景

ES細胞やiPS細胞などの幹細胞から作った体の細胞を使って薬を開発する研究が注目を浴びています。
結構研究が進められてきて、実現できるのでは?と思うニュースもちらほら見かけます。
それでもまだまだ実現にはハードルが何個かあります。

その一つが、幹細胞から作った細胞は体と同じ応答を完全に示してくれないことです。
その理由は、幹細胞から作った細胞は構造的に十分に発達していないためというのが一つの説とされています。
簡単に言うと、赤ちゃんの細胞に近い状態なので、本来の機能(大人の状態)を発揮することができない状態らしいです。

ということで、現在もいかに大人の細胞に近い状態にできるかという研究が取り組まれています。

という背景を踏まえて、その赤ちゃんから大人の状態になるにはどれぐらい時間がかかるの?ということで調べていたときに出会ったのがこの研究です。

文献情報

タイトル:Spatiotemporal relation between gap junctions and fascia adherens junctions during postnatal development of human ventricular myocardium.

著者:Peters NS, Severs NJ, Rothery SM, Lincoln C, Yacoub MH, Green CR.

雑誌:Circulation

年:1994

PubMed:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8044940

かなーり古い論文ですし、研究結果も既に当たり前と言われているようなものです。

内容としては、
ギャップ結合という心筋細胞から心筋細胞へイオンを伝達させるタンパク質があります。
これが子供の時はバラバラに点在しているが、ある一定の年齢になると大人と同様に細胞の特定の部分に集まることを示したものです。

ギャップ結合の局在場所の変化の参考図。参考文献[1]参照

その中で面白いと思ったことが、点在していたものが特定の部分に集まるのに、生まれてからさらに6年もかけて行われていることです。

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用語解説

ギャップ結合

心筋細胞と心筋細胞の間でイオンの移動を担っているトンネル状のタンパク質。
一言にギャップ結合と言っても色々種類があり、心筋細胞は主に「コネキシン43」という名前のギャップ結合があるそうです。

このギャップ結合の役割は、細胞から細胞へイオンを伝達することによって、心筋細胞が動くタイミングが合った状態(同期)にすることです。

参考文献[2]参照

カドヘリン

カルシウムを保持することで細胞と細胞の結合を担うタンパク質。
細胞同士の接着に大きく関わっているタンパク質の一つです。

細胞を扱った実験をしている人はわかると思いますが、細胞を培養皿から剥がすときに使う試薬の一つで「EDTA」というものがあります。
これはカドヘリンからカルシウムイオンを奪いとるために使用しているもので、カドヘリンからカルシウムがなくなると、細胞同士の結合が弱くなります

カドヘリンもいくつか種類がある中で心筋細胞は主に「N-カドヘリン」が発現しているそうです。

参考文献[2]参照

介在版

心筋細胞と心筋細胞の端と端をつなぎ合わせる特殊な細胞接着を担うものです。
階段状の面白い構造をしているそうです。

大きく収縮・弛緩という動きをしている心筋細胞同士で張力を伝える働きを持っているそうです。

今回の記事で取り上げている研究では、この介在版に「ギャップ結合」と「カドヘリン」が密集するようになるというものですね。

内容まとめ

論文の大まかな内容は以下の通りです。

生まれてから、4週間〜15歳までの心臓のサンプルを観察することで心筋細胞のギャップ結合がどのように変化しているか評価をしています。

この観察の中で、わかったことは下記のことだったそうです。

  • ランダムに分散していたギャップジャンクションは、年齢を重ねると共に介在版部分に集中して存在するようになった。
  • N-カドヘリンもギャップ結合と同様に介在版に局在していった。
  • 生まれたばかりはバラバラに点在していたギャップ結合が、大人と同じように介在版に集中して存在するようになるのは、生まれてから6年経ったときぐらい。

人体の不思議

今回の論文では、ギャップ結合が存在する場所が6歳ぐらいになってようやく大人と同じ状態になることが示されていました。

改めて驚きなのが、人間の体は生まれた段階で完成している訳ではないということ。
形、構造が完成して生まれてきて、成長によって大きさだけが変わるのではなく、成長する過程の中で体が完成するそうです。
脳も結構同じことが言われていますよね。
(脳が完成するのは12歳ぐらいでしたっけ?)

この構造が完成する過程では、多くの因子が複雑に作用しているとのことだから、小さい頃にその働きに影響を与えてしまうお酒やたばこなどの成分を摂ることが危険というのは至極納得です。

薬の開発に使えるようになるまで

ES細胞やiPS細胞の話に戻って、「幹細胞を用いて薬の開発をするためにはなるべく大人の細胞が必要とされている」ということでした。

ということは、この論文からすると少なくとも、心筋細胞でギャップ結合の役割であるイオン伝達機能に注目した場合、6年間も細胞を育ててから使わないといけないのか?
と思ってしまいます。

実際、「薬の開発をするために6年間細胞を育てることができますか?」と聞かれても、プロジェクト期間とかコストとか、技術の進歩の都合で無理ですよね。

そこをいかに早く完成させる制御方法を見つけるのが科学の役割の一つだと思います。
「組織工学」「オルガノイド 」といった研究分野では、まさにそれに取り組む分野の一角を担っていますね。

以上、心臓は生まれた後の成長の過程で完成する研究についてアウトプットでした。

参考文献

[1] Gap junctionと不整脈、神谷 香一郎・本荘 晴朗 著
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/42/9/42_9_1132/_pdf/-char/ja

[2] 組織細胞生物学、内山安男 監訳、南江堂

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