本記事では、これから研究を始めたり、始めて間もなかったりして、研究をどうやって進めたらいいかわからないという疑問にお答えします。
本記事は、
- 研究の目的が明確になる
- 研究の主張に説得力が増す
- 行うべき実験が明確になる
といった研究の進め方を明確にする方法をアウトプットします。
私はこれを意識することでなんとか博士過程を乗り切ったり、学術振興会特別研究員というものに採択されたり、研究発表で受賞できたりしたので、多少は参考になるかと思います。
高校生の研究発表会の審査ボランティアにて
知人に紹介してもらい、高校生の研究発表会の審査のボランティアにいきました。
すごい熱気でやる気があり、高校生でここまでやるのかと感動しました。
その一方で、学生のせいでは無いですが、研究に対して大事なところの指導が不十分であることが目立ちました。
(指導している先生は研究に携わっていない方が大半なので仕方無いところです。)
実際にアドバイスをする中で、研究室の後輩や学会発表でもできていないように感じる人をよく見かけたり、私自身結構研究室の雑務等の仕事で忙殺されて忘れていたり、「大事なこと」について自分でしっかり振り返らねばと反省しました。
その大事なことは「研究の進め方」を明確にする4つの項目です。
研究を進め方を明確にする4つの項目
- なぜその研究に興味を持ったのか
- その研究はどこまで進められたのか、できていないことは何か
- この研究は世の中にどのような影響を与えるのか
- それを達成する為に必要な結果は何か
この4つについて意識すると目的が明確になり、説得力が向上し、行うべき実験が見えてきます。
なぜその研究に興味を持ったのか
これは、研究に対する熱を表現するところです。自分の研究のモチベーションに直結する部分でもあるので、この意識があるか無いかで、研究に対し主体的にできるか、受け身になるかの分かれ目だと感じます。
また、自分の問題だけでなく聞いている側のテンションにも影響を与えると考えます。本人が面白いと思っていない研究は聞いても面白く無いです。
例)私は再生医療が研究分野です。
興味を持った理由は、模型でもなく、機械でもなく、細胞という生の材料を使って、人工的に人体を組み立てる。誰も達成できてないし、神の領域と言われている人体錬成みたいなもの。不可能と思われていたことができるようになるのでは!? むしろ自分の手で達成してみたい!
その研究はどこまで進められたのか、できていないことは何か
研究を進める上で一番重要なところです。既にされていることをやっても意味がありませんね。
今はできないけど解決しなければいけない「皆が共有する課題」は何かということを知る必要があります。これを知るための方法は、論文のイントロダクションやディスカッションで述べられているます。論文からは研究の結果だけではなく、その時に「どんなことが求められているか」を知ることができます。
自分だけが考える課題は割と妄想と言われてしまうことがありますが、誰も気づいていない本当に大事なこともあります。ただし、その場合は説得することが非常に大変なので覚悟が必要でしょう。
例)細胞を材料として人体を組み立てる場合
できていること
・数ミリメートル程度の細胞の塊はできている。
解決すべきこと
・人体のように特徴的な構造を持っていない(体の中はとても複雑だけど整った構造をしている)
・人体のように大きな細胞の塊は作ることができない(栄養が届かない)
→みんな取り組んでるけどできていない
この研究は世の中にどのような影響を与えるのか
自分の研究の価値を紹介する部分になります。
価値は他人が決めるものではあるけれども、自分自身で研究の「背景」と「課題」を踏まえた上で、どれほど価値があるものなのか、課題を解決することで得られる恩恵は何かをしっかりもつことが大事です。
その理由は、何につながる研究なのかがはっきりしていない研究はどこに進むべきか迷子になりやすく、聞いている相手も何がしたいか理解しにくいものになります。
例)テーマを「大きな細胞の塊を作る」に設定した場合
・数センチ以上の機能的な細胞の塊を作ることは、これまでに誰も達成できていない(新規性)
・大きな細胞の塊が作れると、生体に移植した時に大きな治療効果がある(恩恵)
・大きな細胞の塊の中の細胞の形状や機能を制御することができたら臓器を人工的に作製する大きな足がかりになる(研究の発展)
それを達成する為に必要な結果は何か
上記の3つをはっきりさせると、自分が研究をして発表したいことを伝える為に必要な材料(結果)が見えてきます。
結果が見えてくるということは、その結果を得る為にはどのような実験をしなければいならないのかが自然と出てきます。
例)前の項目同様、テーマを「大きな細胞の塊を作る」に設定した場合
発表したいこと
・これまでに無い大きな細胞の塊ができた
必要な結果
・これまで達成できなかった大きさを持っている
・内部の細胞が栄養不足で死んでいない(生きている)
どうやって?
内部に栄養を届ける機構を作り細胞が死なないようにする
実験内容
・内部に栄養を届ける機構を作る(人工血管)
→材料は何にするか→作製方法はどんな技術を使うか→機能するか確認
・実際に人工血管を使って細胞の塊を培養してみる
→人工血管に流す培養液の量はどれぐらいが良いか
→どれぐらいの培養時間が必要か(どれぐらいの培養時間まで生かすことができるか)
→細胞の塊の評価はどうするか
→薄くスライスして断面を観察してみる
→観察結果をどうやってまとめるか
→細胞の塊の全体写真で大きさを伝える、グラフを使ってどの範囲まで栄養を届けることができているか数値で示す
という感じでとりあえず一連の流れは大まかに決めることができます。
各実験内容の詳しいことは実際に論文(先行研究)を参考にしてみたり、ディスカッションして洗練していく必要があります。しかし、そこが研究の醍醐味でもあるので、そこまでできれば120点満点だと思います。
まとめ
以上が、私が高校生の研究発表会の審査員をして再確認した、研究を進める上で考えるべき大切なことでした。
- なぜその研究に興味を持ったのか
- その研究はどこまで進められたのか、できていないことは何か
- この研究は世の中にどのような影響を与えるのか
- それを達成する為に必要な結果は何か
という4つの項目を意識することで研究を進める上でどのような実験をしたらいいのだろうということをはっきりつかむことができます。
基礎的でついつい忘れがちなことなのですが、審査員をして教えるなかで、逆に教えられてしまったというお話でした。
これから研究を始めたり、始めて間もなかったりして、研究をどうやって進めたらいいかわからないという方の参考になれば幸いです。
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