本記事では「体の中にある幹細胞(成体幹細胞)を見つける方法」について学んだことをアウトプットします。
幹細胞を用いた再生医療を進めるためには幹細胞を知ることが必要不可欠です。
普段何気なく研究で使用している幹細胞ですが、
その幹細胞は一体どんな方法を使って見つけられたのでしょうか?
その方法は
- 単一幹細胞移植法
- Cre-loxPシステムを用いた単一細胞系譜追跡法
- 単一細胞RNAseq法
- キメラ解析と多色細胞系譜追跡法
などの方法を駆使し、まるでパズルを解くかのように見つけ出しているようです。
成体幹細胞の研究
成体幹細胞は
- 組織維持
- 障害後再生
- がん化
- 老化
などの様々な生命現象で重要な役割を持っている細胞です。
細胞生物学における研究対象だけでなく、再生医療でも注目されています。
※成体幹細胞とは
成体の中に残っている(維持されている)幹細胞。
ES、iPS細胞のように万能ではないけれど、各組織に合わせた細胞になることができると言われています。
ES、iPS細胞よりがん化のリスクが低いなどのことで再生医療で注目されています。
成体幹細胞が見つかると研究が大きく進む
これまでに
- 造血幹細胞
- 小腸幹細胞
- 上皮幹細胞
- 皮膚幹細胞
などが見つけられて、基礎的な研究がかなり進んでいます。
この基礎的な知見が蓄積され、再生医療などの応用も取り組まれています。
まだまだ見つかっていない成体幹細胞はたくさんいて、再生医療を進めるためにも、幹細胞の発見は重要な研究であると考えられているそうです。
どうやって幹細胞を見つけるのか?
成体幹細胞を見つける一般的な方法は「特異的マーカー」(細胞の指紋のようなもの)を見つけることです。
難しいところは、マーカーを1つだけ見つけても、十分ではないというところで、
ある細胞だと10〜15種類の組み合わせが成り立ってようやくその幹細胞だと断定できるものもあるらしいです。
特異的マーカーを見つける方法として3つの有名な方法があるとのこと。
- 単一幹細胞移植法
- Cre-loxPシステムを用いた単一細胞系譜追跡法
- 単一細胞RNAseq法
そして本記事で解説されている新しい方法として、
- キメラ解析と多色細胞系譜追跡法
があるそうです。
単一幹細胞移植法
表面マーカーによる純化した造血幹細胞を用意し、放射線照射によって、造血能力を消したマウスに移植します。
この時に造血能力が再構築された細胞が目的の造血幹細胞であり、純化するときに使用したマーカーが幹細胞特異的なマーカーであると特定する方法です。
造血幹細胞以外の細胞での応用が難しいことが欠点とのこと。
Cre-loxPシステムを用いた単一細胞系譜追跡法
特異的マーカーが明らかな場合だと、幹細胞マーカー遺伝子がある部分にCreERT2という遺伝子を入れたマウスと、Rosa26レポーターマウスを掛け合わせたマウスを用い、タモキシフェンを使用して成体幹細胞をLacZで標識することで、成体幹細胞の挙動を追跡するというものです。
何を言っているかわからない人は下記の用語解説を参考にしてみてください。
私もはじめ読んだとき、さっぱりわかりませんでした。
用語解説
・Cre-loxPシステム
CreというDNA組み替え酵素がloxP配列というDNA配列に働きかけることで、その部分だけ遺伝子組み替えを行う遺伝子実験です。
CreERT2を使うと任意のタイミング(タモキシフェンを使用した時)にloxPシステムを稼働させることができるそうです。
例えば、緑色に光るタンパク質の遺伝子をCre-loxPシステムによって働くようにしたマウスを育てると、何もしていないときは光らないけど、タモキシフェンを使用した時に光るようになるという感じのものです。(参考:脳科学辞典)
・CreERT2
Cre-loxPシステムで使用するCreとエストロゲン受容体を融合させたもので、内在性のエストロゲンに反応せず、タモキシフェンのみに反応するように改造されているもの。(参考:実験医学Online)
・LacZ
βガラクトシダーゼ(ラクトースを分解する酵素)の情報を持っている遺伝子。X-galを気質にする反応によって、青色をの色素ができることで、細胞が青色に染まる。(参考:研究.net)
・Rosa26(領域)
マウスの第6染色体に存在するゲノム領域のこと。
細胞に色をつける遺伝子を導入したいと考えたとき、むやみやたらに適当な遺伝子の場所に、別の遺伝子を入れると、本来の遺伝子が正常に働かなくてマウスの体に異変が起きてしまいます。
このRosa26領域は、他の遺伝子の邪魔をすることなく、体全ての細胞に色をつけることができるというとんでもなく安定な領域だそうです。
この領域がなかったら分子細胞生物学とかどうなっていたんだろうとか言われるぐらいのすごい領域らしいです。(参考:実験医学Online)
つまり上記の用語解説を踏まえて簡単に説明すると、マウスを飼育している任意の段階でタモキシフェンを使用すると、注目したマーカーを持つ細胞の場所がどこにあるのかを特定することができるというものです。
注目した幹細胞が体の中のどの部分でどんな感じで動いているのか増えているのかを見ることができる技術なんですね。
単一細胞RNAseq法
細胞集団における一つの細胞の、ある状況下における全てのmRNA(トランスクリプトーム)を解析し、このmRNAの発現量に基づいて幹細胞を見つけてくる方法です。
遺伝子の発現量の特徴から幹細胞を特定するためのアルゴリズムなどが開発されているそうです。
これらのアルゴリズムを併用して使用するのが、成体幹細胞を見つけるのに非常に有用であるそうです。
複数の細胞集団の中で、どの集団が最も幹細胞としての特徴を持っているのか推定し、親子関係を推定することで分化系統樹を作ることができるとのこと。
欠点として、必ずしもこの方法だけで成体幹細胞を見つけられる訳ではいこと、幹細胞マーカーの候補をこの方法でリストアップし他の方法を使うことで裏付けすることが必要とのことだそうです。
用語解説
・Stem ID
トランスクリプトームから系統樹を導出するための計算方法。
・Velocyte
mRNAのスプライシング状況(スプライシングされたものされていないもの)からRNA速度というものを推定して、細胞の状態を見たり予測することができる方法。
・Monocle
機械学習のアルゴリズムの一つ。
シングルセル解析によって得られた、遺伝子発現情報を用いて擬似的な時間軸を作り出し、細胞系譜を予測するもの。
新しい方法「キメラ解析と多色細胞系譜追跡法」
人為的にキメラマウスを作って発生中の注目した細胞系譜を追跡する方法ですが、ただしこれまでは2色しか使うことができなかったので、限界があったそうです。
そこで、限界を超えるために多色キメラマウスをつくったとのこと。
複数種類の蛍光タンパクをRosa26領域に入れ、4色分の蛍光タンパクを持つマウスを作りあげたそうです。
(この多色キメラマウスとCre-loxPシステムを組み合わせたマウスを、レインボーマウスと呼ぶそう。)
多色にするメリットは下記の通り。
- 発生中に起きた細胞融合を起こした細胞を視覚的に捉えることができる。
- クローンが3色のうち1色にランダムに選ぶので、違う2色の色の細胞は確実に違う細胞のクローンであることがわかる。
(ただし、同じ色に染まる他の細胞も確率的に出るので、これは今後色を増やしていくことで、かぶる確率を減らすそうです) - 幹細胞マーカーが道でも、幹細胞の挙動を間接的に視覚化することができる。
現在、10色、15色のマウスの作製が達成されており、1000色を目指して研究を進めているそうです。
思ったこととか考えたこととか
この分野は私の専門からかなりずれた研究なので読むのにとっても苦労しました。
成体幹細胞を見つけるのに、まるでパズルを解くかのように様々な方法を使って、特定していくような手法はとても面白そうですね!(もちろん大変そうですが)
今の方法で解けないとなった時に、新しい方法を作っていくスタンスも素晴らしいと思います。
幹細胞が特定されると、その役割やもちろん、その臓器はどのように形作られているのかなど、様々な体の設計図が解き明かされていきます。
それをヒントにして、応用の人たちが発展をさせていくような構図になっていると私は思います。
応用分野に携わっている身として、このような基礎の分野は非常に重要だと感じています。
基礎研究を学べば学ぶほど、重要さとその労力に頭が上がりませんね。
応用として、基礎研究で明かされたことをうまく応用して、世に還元できる形に作り上げていけるよう精進しようと思う今日この頃です。
コメント