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フィブリノーゲン由来ハイドロゲルの硬さで心筋細胞の機能を制御する

論文メモ
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再生医療で人体の再構築ができるか?の答えを求めて、生体の組織を人工的に再構築する研究分野である組織工学についての論文を綴ります。
わかりやすい紹介を心がけるので少しでもこの分野に興味を持ってもらえると嬉しいです。

今回紹介する論文は「Matrix stiffness affects spontaneous contraction of cardiomyocytes cultured within a PEGylated fibrinogen biomaterial」で2007年にActa Biomaterialia (PubMed)に掲載された論文です。

PEG(ポリエチレングリコール)を修飾したフィブリノーゲンのハイドロゲルを用いて、ゲルの硬さを調整すると心筋細胞の拍動にどのような影響を与えるのか調べられています。

再生医療のアトリエ」は私が大好きな研究である、再生医療・組織工学という人工的に臓器を作る研究について「とにかく楽しく、わかりやすく」をモットーに叡智を綴る場所です。
よかったところ、わかりにくいところ、もっと知りたいところなどコメントいただけると嬉しいです。

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研究の背景とか課題とか

再生医療や創薬研究で細胞を使うにあたって、いかに細胞の本来の機能を引き出すかということが大きな課題です。
組織工学では細胞の周りの環境を制御することで、本来の体の中に近い環境を作ることで機能を引き出すことに挑戦しています。

その環境を作り出すための方法の一つとして、バイオマテリアルが重要な因子であると考えられています。
例えばコラーゲンやフィブリノーゲンなどの生体中に存在するタンパク質から構成されるゲルや、多糖類や合成高分子で構成されたゲルを使って細胞を培養する方法が開発されています。

細胞は自身の周りの環境である

  • タンパク質の種類
  • 物理的性質

などを認識することで機能の発現が調整されていると言われています。

ただし、その環境を作る因子は種類も多く条件も多岐に渡るため、適切なものを探す研究が活発に取り組まれています。

ゲルの硬さと細胞機能について調べた論文紹介

今回ピックアップする論文は、細胞の周りの環境を制御する中でも硬さの要因に注目したものです。
タイトルは「Matrix stiffness affects spontaneous contraction of cardiomyocytes cultured within a PEGylated fibrinogen biomaterial」で2007年にActa Biomaterialia (PubMed)に掲載された論文です。

硬さが調節可能かつ生理活性を持つフィブリノーゲンをベースとしたゲルで心筋細胞を培養すると、ゲルの硬さの条件によって心筋細胞の収縮能力に影響を与えることが示されていてとても面白く読めました。

この論文では心筋細胞の機能を向上させるためのバイオマテリアルとして、
フィブリノーゲンとポリエチレングリコール(PEG)を組み合わせたPEG化フィブリノーゲンを用いています。
この材料のゲル化方法は光を用いてゲル化させる光架橋というもので、UV照射によって数分でゲル化するのが特徴的ですね。
(ゲルの詳細についてはこちら

PEG化フィブリノーゲンのゲルは濃度依存的にゲルの硬さが増加することが示されていて、だいたい8〜340Paぐらいの範囲で調整できるとか。

そして、ゲルに心筋細胞を混ぜ込むと、ゲルの濃度(硬さ)によって心筋細胞の拍動に違いが生じることが確認されたそうです。

結果としては、
柔らかいゲルの中ほど心筋細胞の収縮の動きは大きくなり、さらに他の細胞と同期している(拍動のタイミングがそろっている)割合も多くなっている。
一方で、ゲルが硬くなるほど心筋細胞の収縮は小さくなり、拍動のタイミングもバラバラになっていることが実験から分かったそうです。

この結果が起きる原因として、ゲルの濃度(硬さ)が心筋細胞がゲルの中で伸びたり、細胞同士が接着し合う挙動に影響を与えているのではないかということ。
ゲルの濃度が低いと細胞は伸びやすく、細胞はゲルの中を移動しやすいため細胞同士の接着しやすくなる。その一方で、ゲルの濃度が高いとそれらの動きを邪魔するのではないかと考察されていました。

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インジェクタブルゲルの用途と違う視点で見ても面白い

実は、この研究で用いられていたPEG化フィブリノーゲンはインジェクタブルゲルという、細胞などと混ぜて体内に注入して治療するための材料として開発、研究されているものです。

細胞移植用として、このゲルと共に体内に注入した心筋細胞が体内で高い機能を得られるにはどうしたらいいか?ということでゲルの濃度や硬さに着目した論文でした。

細胞周囲の硬さという物理的なパラメーターが、心筋細胞の「拍動する」というメインの機能に大きく影響を与えるという点について、体の外で組織を構築する研究でも足場材料と細胞の組み合わせが重要なのでとても参考になる研究だと感じました。

細胞の機能が硬さの影響をどれほど受けるか気になる

この研究だけでなく、細胞に対する周囲環境の硬さという視点では結構注目されていて、硬さが細胞に対して分化、形態、機能など様々な点に関与していると言われています。文献

この研究では柔らかいほど心筋細胞の収縮が大きくなり、硬くなるほど収縮が小さくなるとの結果が示されていましたが、他の研究結果では心筋細胞にも至適な硬さ(だいたい10 kPa)があるそうで、柔らかすぎても硬すぎても良くないということも示されています。(文献

その点ではこのゲルを用いた場合でもゲルの濃度をもっと下げると収縮の低下等が起きるのかがもっと知りたいと感じた部分でした。

材料のコンセプトとして気になる点は、インジェクタブルゲルとして開発されている材料ではありますが、今回使用しているゲル化方法は光架橋を用いています。
インジェクタブルゲルは温度、pHなど様々なゲル化のトリガーを用いた材料が開発されていて(文献)、それらのゲルは注入するだけでゲル化する方法に対して、このゲルでは光を照射しないとゲル化しないので、体内に注入した際にどうやって光を照射するのか?という点が気になるポイントでした。

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組織工学でも活躍できそうな材料

この研究では細胞との接着などの生理活性を付与するためにフィブリノーゲンを用いていました。

細胞と細胞接着タンパク質(細胞外マトリックス)の相互作用は細胞の機能に対して大きく影響していると言われています(文献)。

フィブリノーゲンは血管などの傷ついた組織の修復のときに使われる細胞外マトリックスで、本来の臓器だとコラーゲンなどの種類の方が豊富なことを考慮すると、この研究でもフィブリノーゲンからコラーゲンなど細胞に合わせたタンパク質を選択することで、より細胞の機能の制御ができるのかなとかなり興味をもつ材料でした。

あとは、細胞とゲルをインク材料として3Dプリンターを使って3次元の組織を作る研究も行われていて、その中でも光架橋によってインクを固めて造形する方法があるので(文献)、この材料が活躍しそうなところがワクワクしますね。

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