腸オルガノイドで大腸がんと腸内細菌の関係を検証してみた論文のメモ

Science Memo
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本記事では「腸オルガノイドで大腸がんと腸内細菌の関係を検証してみた」論文についてアウトプットします。

ある特定の腸内細菌は大腸がんの発生に影響を及ぼすのではないか?という仮説があります。
その根拠は、コリバクチンという遺伝子毒性を持つ因子を産生する大腸菌が、大腸がん患者に多いということです。

しかし、今のところ

  • どのような変異が起こるのか
  • コリバクチンがヒトのがんとの関係性はどの程度あるのか

については分かっておらず、その仮説の答えはまだ出ていないとのことです。

そこで、腸のオルガノイドを用いて

  • コリバクチンがどのような変異を起こすのか
  • その変異は大腸がんと関係があるのか

について調べた研究が報告されていました。

論文情報

Mutational signature in colorectal cancer caused by genotoxic pks + E. coli. (PubMed)
Pleguezuelos-Manzano C. et al. Nature 2020 580(7802):269-273.
doi: 10.1038/s41586-020-2080-8.

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腸内細菌が大腸がんを引き起こす?

大腸がんの発生は腸内細菌が関与しているのではないかという説があります。
その根拠は、大腸がん患者から遺伝子毒性を示す大腸菌が多いという報告などがあります。

ある特定の種類の腸内細菌は、DNAを損傷する遺伝子に対して毒性を示すコリバクチンという分子を産生しています。
動物モデルでコリバクチンが腫瘍の発生を促進しているという報告もあるそうです。

とはいえ、これが直接的ながんの発生に関与しているかは実証されていないため、本当かどうかはわかっていません。
そこで、ヒトの臓器の構造や機能の特徴体を生体外で再現した「腸オルガノイド」を用いて検証したとのことです。

腸オルガノイドによる細菌と大腸がんの関係を調べた

腸オルガノイドの作り方

作り方の詳細についてはこちらの論文に詳細が書かれていました。(参考1:PubMed)(参考2:PubMed

マトリゲルという基底膜成分や成長因子を含むゲルに、腸の幹細胞を埋め込んで培養します。
培養をしていくと、ボールのような球状かつ内部が空洞の組織が形成されます。(ボールよりはかなり形がいびつだけれども)

オルガノイドの作製方法としては、結構一般的な手法だと思います。

腸のオルガノイドと言えば、基板上で細胞のくっつくところくっつかないところを制御した方法(パターニング)も話題ではありましたが、今回はこの手法のものではないそうですね。(参考3:PubMed

オルガノイドと大腸菌を共培養する

ここからが研究の主な部分です。
作製した腸オルガノイドの内腔に、遺伝子毒性を示す分子(コリバクチン)を産生する大腸菌を注入して培養します。(コントロールはコリバクチンを産生しない大腸菌を注入)

培養1日目で、コリバクチンを産生する大腸菌の方では、オルガノイドの細胞に遺伝子の損傷がみられたとのことです。

さらに長期的な影響を調べるために、2-3週間ごとにオルガノイドをバラバラにして、再度形成し、大腸菌を注入してを繰り返して、5ヶ月間の長期的な大腸菌の暴露をしながら培養してみたそうです。
そして、オルガノイドの全ゲノム解析をしてみたところ、コリバクチン特異的なDNAの変異が見つかったとのことです。

この遺伝子の変異はヒトの大腸がんでもあるのか確認してみたところ、
がん患者のゲノム情報(大腸から転移したがんについて)を調べてみたところ、オルガノイドで見られたものと同様の変異が500例のうち、7%前後で見つかったそうです。

検証の中で、コリバクチンを産生する大腸菌に暴露されることが、大腸がんの発生の原因になるのでは?という可能性が示されたとのこと。

ただし、大腸ガン患者では60%の人がコリバクチンを産生する大腸菌をもっているのに対して、数%しか変異が起きていないのは疑問が残るところです。
また、コリバクチンを産生する大腸菌を除去することによって、どの程度がん化のリスクを低減できるかについても調べる必要があるとのことです。

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思ったこととか考えたこととか

オルガノイドの研究が進んできて、ただ作るだけではなく、今回みたいながんの発生の研究や他にも創薬の研究にも使われてきていてすごいと思いました。

自分の中では、オルガノイドは作って評価して終わりだと思っていましたが、
今回の実験のように、数週間単位で継代のようにして維持することも可能というのはかなりの衝撃でした。
ちゃんと幹細胞が維持された状態で培養されているんだなと感嘆しますね。

また、オルガノイドはまだ臓器の一部しか再現できていないため、不完全なモデルではあるものの、
今回の研究においては、免疫系や炎症系の機能やその他の環境がないからこそ、コリバクチンと腸の細胞の直接的な影響を見る事ができたとのことで、こういう考え方もあるのかと勉強になりました。

一方で、体の中はたった一つの因子によって引き起こされる現象はほぼなく、複雑な因子が絡み合って起こることの方が多いので、この点についてはまだまだオルガノイドの発展の余地があるのではないかと思います。
必要な因子を自由自在に足したり引いたりできるようなモデルを作る事が、オルガノイドの究極の到達地点なのかなと妄想が捗りますね。

今回の研究では、いきなりオルガノイドが出てきていましたが、従来までの平面培養では同様の事ができないのかどうかがとても気になる部分ではありました。
研究の本筋的には解明する事がメインなので、どのモデルを用いても良いのかもしれませんが、コストと時間のかかるオルガノイドを使うだけのメリットがどれほどあったのかについては個人的にかなり気になるところです。

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まとめ

以上、「大腸がんと腸内細菌の関係をオルガノイドで検証してみた」論文についてのアウトプットでした。
オルガノイドを用いて、コリバクチンを産生する腸内細菌が大腸がんを引き起こすのではないかということに迫った論文でした。

この研究によって、

  • がんを引き起こす変異とその原因
  • ヒトの大腸がんと腸内細菌の関係

について明らかになってきたそうです。

オルガノイドは今回の研究のように複雑な体の中をシンプルに表現するモデルとして威力を発揮する事ができるとのことで、オルガノイドのすごさを改めて感じました。
オルガノイドでどの程度複雑にするのかを自由自在にコントロールする事ができるようになれば最強のモデルなのでは?とか考えるの楽しいですね。

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