本記事では、皮膚の若さを保つメカニズムは何?老化はなぜ起こるのか?という現象を細胞競合という視点から捉えたレビュー記事を読んで学んだことをアウトプットします。
アンチエイジングとか皮膚(肌)を若く保ちたいという人は多いと思います。
ところが、皮膚はどうやって若い状態を保っているのか?
老化という現象は何がどのように変化して起こっているのか?
ということはまだまだ明らかになっていないそうです。
そこで、皮膚の再生と老化の仕組みを細胞競合という現象から見た研究から学んでみようと思います。
細胞競合とは
細胞競合の分子機構とその生理的な意義、http://leading.lifesciencedb.jp/6-e008
組織において適応度の異なる2種類の細胞が近接すると,適応度のより高い細胞が生き残り,より低い細胞が排除される。
私は、エンカウントした細胞が生存をかけた死闘を繰り広げるという解釈をしています。(冗談)
研究概要
背景
まず、老化の仕組みについて組織や臓器、個体レベルでの解明はまだできていないそうです。
しかし、細胞への内側や外側からのダメージやストレスが原因というのはわかってきているようです。
一方、組織は常に修復され、正常な状態を保とうとする働きがあるので、ダメージやストレスがそのまま溜まる訳ではないそうです。
老化した皮膚の特徴は下記のようです。(参考)
- 皮膚が薄く、弱くなる
- 傷の治りが遅くなる
- 色素沈着異常が起こる
老化した皮膚組織は、XVII(17)型コラーゲン(COL17A1)というヘミデスモソーム(上皮細胞が基底膜と結合する接着装置)構成因子の発現が減少した状態になっているそうです。(参考1)(参考2)
豆知識ですが、コラーゲンは全部で28つの型があると言われています。(参考)
若さを保つためにはCOL17A1の維持が大事そうとのことで、ここに表皮幹細胞たちの細胞競合という現象が関与しているかもしれないとのことで調べてみたようです。
実験と結果
加齢による表皮の変化をマウスの尻尾で調べてみると、ヒトと同様に前述した老化状態がみられて、COL17A1も減少している様子がみられたそうです。
次に、ストレスによってCOL17A1がどう変化するのかを調べたそうです。ヒト表皮角化細胞に紫外線・放射線・過酸化水素でストレスをかけると、確かにCOL17A1が減少し、ヘミデスモソームが不安定になったそう。
加齢による表皮幹細胞の変化を追跡してみると、加齢とともに、COL17A1が多く発現している細胞が、COL17A1の発現が低い細胞を排除している傾向がみられたそうです。
このことから組織中のCOL17A1を高く保とうとしている機構が働いていると推測できるそう。
上記の現象の引き金がCOL17A1では?ということで、Col17a1遺伝子を薬剤で欠損したマウスで観察すると、Col17a1を持たない細胞が排除されている様子がみられたそうです。
なぜCOL17A1の発現量の違いで細胞競合が起きるのか?については、どうも細胞が分裂する方向が違うそうです。
- 正常な細胞は水平方向に分裂
- Col17a1の発現が低いものは縦方向に分裂
この差が細胞競合の駆動力になっているのでは?と考えられているそうです。
また、COL17A1は組織の再生を促進しているのでは?ということで、Col17a1をノックアウトすると傷の治りが遅くなるのに対して、COL17A1は過剰発現させると傷の治りが早くなるそうです。
これらのことを踏まえて、COL17A1が発現している表皮細胞がCOL17A1の発現が低下した細胞を排除することで老化を防いでいることが考えられるそうです。
そして、加齢とともに、徐々に全体のCOL17A1の発現が低下することで老化していくのでは?とのこと。
課題
じゃあ老化を防ぐには、COL17A1の発現が高い表皮細胞を移植すればいいのでは?と思うけれども、移植した細胞自身が細胞競合によって残る側になるのか、排除される側になるのかが難しいかもしれないとのこと。
思ったこととか考えたこと
細胞競合によって生き残るかどうかわからないと述べられていたけれど、それ以外でも、そもそも幹細胞を維持する環境が残っているのかなーという疑問が出てきました。
表皮幹細胞自身で未分化な状態を維持する機構があるのか、それとも周囲の環境によって維持されているのか、調べてみると面白そうです。
もし、周囲の影響を受けて幹細胞としての性質が維持されているのであれば、老化が始まって、維持する機能が落ちていたら表皮幹細胞を移植するだけでは不十分なのではないかなとも考えられます。
仮に表皮幹細胞で維持する機構を持っていたり、足場材料などを使って人工的に維持する環境を整えた時に、老化した皮膚組織は元の若い状態に戻れるのかというところも気になるところですね。
このように、何かのメカニズムが解明されると、「この先の機構はどうなんだろう?」とか「ここはどうなんだろう?」とかどんどん枝分かれしていきながら考えることができるのでものすごく楽しいですね。
あと、3次元培養の皮膚モデルに応用できるんじゃないかというところが個人的にすごくワクワクしているところです。
皮膚モデルは現在ニコダームやクラボウなど様々なメーカから販売されたり(KOKEN)研究されたりしています(参考)。
ただ、この皮膚モデル、寿命が数週間程度しか持たないことが一つの課題になっています。
この原因として、多分幹細胞がないために、表皮の細胞に分化していくけれどその材料になる細胞が枯渇していることが原因じゃないのかなと個人的に考えていたりします。
ここにCOL17A1の発現が高い表皮細胞を入れて、維持できる環境を作ることができたらモデルの寿命が伸びたりするんじゃないかなと妄想してみたり。
もしこれができれば、化粧品開発や薬開発の動物実験代替にも使えるし、今回みたいな基礎研究のin vitroモデルとしても良いものができるんじゃないかなと期待が膨らみますね。
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