本記事では「実験医学 2022年4月号」を読んだ感想をアウトプットします。
最新の生命科学、医学の情報がわかりやすくまとめられた雑誌です。
おそらくバイオ系医学系の研究室には常備されていると言っても過言ではないくらい有名な雑誌ですね。
2022年4月号の実験医学では、
- 生命科学でのスパコン・クラウド運用についての特集
- mRNAワクチン研究に貢献した研究者インタビュー
- 力の刺激による心臓弁形成メカニズム
などなど、今月号もとても面白く、勉強になる記事がたくさんありました。
「実験医学 2022年4月号」を読んだきっかけ
大学から離れて、バイオ系の研究の世界の情報にアクセスするためのツールとして購読する価値が大きいなと思い、毎月購読しています。
普段触れることが少ない分野について触れるきっかけになる、読み易いけれど読みごたえがある素晴らしい雑誌ですね。
前回の感想記事はこちら
2022年4月号で特に私自身面白いと思ったのが下記の内容です。
- 生命科学でのスパコン・クラウド運用についての特集
- mRNAワクチン研究に貢献した研究者インタビュー
- 力の刺激による心臓弁形成メカニズム
などなど、今月号もとても面白く、勉強になる記事がたくさんありました。
「実験医学 2022年4月号」を読んだ感想
RNAワクチンの歴史と基礎から創薬応用についての特集
4月号の特集のテーマは「スパコン・クラウドを生命科学に使う ペタバイト時代を生き抜くためのシステム整備とデータ活用事例」とのことでした。
スパコンと聞くと、「京」や「富岳」と聞き馴染みがあり、世界にも誇ることができる日本の技術の一つだと思います。
ただ、恥ずかしながらスパコンは「とにかく計算速度がすごい」ぐらいのイメージしか持っていなかったのですが、この特集から、
- なぜ生命科学でスパコン・クラウド技術が必要なのか
- 実際にどのように運用しているのか
- 使うためにはどのような手続きをする必要があるのか
など、実践的なことを含めて学ぶことができました。
近年、ゲノム解析を用いた研究が当たり前になってきています。
その恩恵はがんの治療やワクチンといった分野ですでに恩恵を受けている人もいると思います。
このゲノム解析を用いた研究では
- とにかくデータ量が膨大(ヒト1人あたり約100 Gbyte)
- データの内容が個人情報の塊でセンシティブ
ということで、大量のデータを処理することはもちろん、データの管理も同じぐらい重要とのことです。
それを解決するための技術が「スパコン」と「クラウド」技術になるそうです。
ゲノム解析が当たり前のようになってきていますが、大規模のデータを処理するような高機能な計算機を各ラボで当たり前のように用意することは現実ではないとのこと。
そこで、通信技術とクラウド技術を駆使することで、ラボで計算機を用意せずとも、外部の計算機を使用することができる仕組みが構築されているそうです。
また、重大な個人情報であるゲノムデータを扱うためのガイドライン対応や、データを扱う人たちとの意識の共有が非常に大変だった点が興味深かったです。
「富岳」は誰がどうやって使っているんだろう?とうっすら疑問に思っていたことがあリマしたが、それについても申請書を提出して公募形式で採用された人が使用していたり、文科省などの大型プロジェクトで使用されていたり、2022年からはトライアルで使用できるようになってきたりしているとのことです。
ただ大量のデータを集めて、高機能な計算機で処理をしているだけと思っていましたが、現実的な運用の課題や個人情報の取り扱いの大変さなど「こんな苦労があったんだ」と知ることができた特集でした。
この特集を読んだ感想として、
恥ずかしながら、スパコンと聞くと「とにかく計算能力がすごいコンピューター」ということしか知らずそれで満足していました。
この特集を読んで、誰がどのように運用しているのか、スパコンを使うために必要な手続きはどんなことをするのかという実践的なところを知ることができたのが特に印象深かったです。
遺伝子関連の研究は疎く実際のところを知らなかったですが、ヒトのゲノムデータは一人当たり約100 GByteあり、これをデータベース化するとペタバイトの規模になることが驚きでした。
スパコンの計算能力という性能ばかりに目が行ってしまっていましたが、このデータベースを活用するための高速な通信技術であったり、個人情報の塊を扱うためのセキュリティーの課題についても欠かせないぐらい重要なもので、生命科学者だけでなく、通信技術や倫理的な知見を持った人など様々な人たちがいて成り立っているんだなと感じました。
mRNAワクチン研究に貢献した研究者インタビュー
世界的なパンデミックの対抗策の一つとしてmRNAワクチンがあります。
その基礎の構築に貢献した2名の研究者、Katalin Kariko博士とDrew Weissman博士へのインタビュー記事が掲載されていました。
mRNAワクチン開発で最も重要だったことは、RNAの研究をしていたKatalin Kariko博士と免疫の研究をしていたDrew Weissman博士の2人がコピー機の前で出会ったことと冒頭で述べられているところから面白かったです。
実際にどのような経緯を経て開発までに至ったかが語られており、その中でも日本の研究者の貢献もかなりあったそうで、様々な分野の先生がいたからこそできたものということがよく分かりました。
一人ではできることが限られるので、協力して研究していくことがいかに重要かを示した良い例だと思います。
2人の先生の研究のモチベーションについても語られていました。
特に失敗についての考え方は見習いたいところが多くありました。
新しいアイデアが全部成功することは絶対になく、失敗したデータを捨てずに、なぜ失敗したのかを理解して試行錯誤していくことが重要という言葉が、基本ではあるけどなかなかできないなと思いました。
また、レオナルド・ダ・ヴィンチの言葉「Experiment never fail. It is only your expectation.」もピックアップされていました。
失敗は実験が失敗したのではなく、その結果を期待していたこと自体が間違いという意味らしく、厳しい言葉ではあるけれど、そのとおりだなと思いました。
期待という自分の思い込みと、実験結果という現実のギャップを受け止めて、進んでいくことが大事ですね。
科学者の姿勢としても、オープンマインドで、たくさん論文を読み、可能性をすべて考える。気に入らないからと、好ましくないデータを無視しないなど見習うべきところが多かったです。
科学に真摯に向き合い、大きな成果を残している方のインタビュー記事は良い刺激になります。
力の刺激による心臓弁形成メカニズム
心臓の逆流を防ぐ重要な機能を持つ「弁」の形成において、「力」の刺激がどのくらい関与しているのかを明らかにした研究の記事についても興味深かったです。
近年、細胞に対する力学的刺激の研究への注目が日に日に大きくなってきているように感じます。
再生医療や組織工学といった分野においても、硬さや圧力といったパラメーターが、組織形成や再生に大きく関わっている報告を聞きます。
最近では、血管新生についても力の刺激が関与しているとの報告がありました。
この記事では、心臓の弁の形成には「力学刺激」による影響がどれぐらいのものかは未解明とのことで、評価系の構築とその影響について明らかにしたとのことです。
大まかな流れは下記のようなものでした。
- 心臓弁の形成では細胞へのカルシウムイオンの流入が重要
- 磁気ビーズを用いて細胞周囲での力の負荷を制御することで、力学刺激に応答して、カルシウムイオンの流入が生じていることを発見
- 機構についてメカノセンサーなどについて調べると、血管内皮細胞や骨芽細胞と同じような力の刺激によるATPの放出に伴うカルシウムイオンの流入、細胞内シグナルの伝達が起きていることがわかった
ゼブラフィッシュをライトシート顕微鏡を用いて生きたまま高速イメージングを行ったり、数十μmサイズの磁気ビーズを極小のプローブで操作することで力の刺激を加えたりと、イメージング方法や力の制御方法などの評価技術について新しいものが使われていて面白く感じました。
既存の評価技術で見ることができないといって諦める人もいれば、この研究のように新しい評価技術を作ることで開拓していく人もいるのを見ると、後者のような人で在りたいと思う記事でした。
まとめ
以上、「実験医学 2022年4月号」を読んだ感想のアウトプットでした。
2022年4月号の実験医学では、
- 生命科学でのスパコン・クラウド運用についての特集
- mRNAワクチン研究に貢献した研究者インタビュー
- 力の刺激による心臓弁形成メカニズム
が個人的にとても印象に残る記事でした。
スペックだけを見るとあまりに性能が高すぎて、規模も大きくて、実際にどの程度すごいものなのか、どうやって使っているのかについて想像できず考えるのをやめていた「スパコン」ですが、その認識を改めさせてくれる良い特集だったと思います。
私自身がスパコンを使う機会は来ないとは思いますが、スパコンを少し身近に感じることができた4月号でした。
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