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Natureが調べた世界のポスドクの実態についてのメモ【Nature初のポスドクアンケート】

Science Memo
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本記事では「Natureが調べた世界のポスドクの実態」について、
Natureが行なった初のポスドク向けのアンケートについてまとめた記事について学んだことをアウトプットします。
ポスドクの待遇について、日本ではかなり不遇であると言う話は聞いた人が多いと思います。
そんなことから、海外でポスドクをすると良いかもと夢見る話も結構耳にしてきました。

しかしよく考えると、

そもそも世界的にポスドクってどんな境遇なの?

という疑問を抱きます。

これについて、Natureが初めてポスドクに対しての生活や待遇についてのアンケートをとったという記事がありました。

これまではポスドク問題といえば日本の問題だと思っていましたが、世界的に見ても日本と同様の問題を抱えているようです。

参考記事

The precarity of postdocs.
Chris Woolston
Nature. 2020 578 (505-508)

Natureダイジェスト2021年2月号で日本語版を読む事ができます。)

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ポスドクがが抱えている問題は何か?

そもそもポスドクとは

ポスドクとは、博士号取得、博士課程終了後に大学などの研究機関で数年間の契約で研究をしている人のことを主に示します。

「ポストドクター(postdoctoral researcher:博士研究員)、略してポスドク」ですね。

博士課程を終え、一応それなりに研究者として認められた後の、大学の先生(教授、准教授、助教授)になるための訓練期間のようなイメージが強いでしょうか。

ポスドクが抱える問題

上記の「数年間(任期制)の契約」からも分かるように、ポスドクは派遣社員みたいな立場です。

多くの人は数年間のプロジェクトの予算で雇用されて、プロジェクトが終わると次の契約に移ります。
運がよければ同じ所属で継続もありますが、別の機関での別のプロジェクトでの契約に移る人が多い気がします。

ポスドクは博士課程を経験しているだけあって、経験的にプロジェクトのコアとなるぐらいの研究遂行スキルを持っている人が多い印象です。
にも関わらず、派遣社員のような扱いを受けているため、

  • 数年間の契約
  • 福利厚生が充実していない
  • 低賃金
  • 研究上の立場が弱い
  • 将来の見通しが不明瞭

という多くのデメリットがあるように感じます。
その上、研究で負わせられる責任は大きいなど、不遇な印象が強いですね。

自身も少しだけポスドクを経験した事がありますが、大体こんな感じでした。

こんな過酷な環境だけど、なぜみんなポスドクになるのでしょうか?

それは「大学などの研究機関で研究者として研究したいから」と考える人が多いと思っています。

そんなポスドクについて、日本ではポスドクの問題についてよく耳にしますが、世界的に見るとポスドクはどんな境遇なんでしょうか?

Natureが初めて実施したポスドク向けのアンケートがあり、この結果から世界のポスドク事情について垣間見る事が出来ました。

Natureのポスドクアンケート

どんなアンケートなのか?

全米アカデミーや経済協力開発機構(OECD)という大きな機関としても、ポスドクに対して、

  • 雇用保障がない
  • 薄給
  • 終身ポストがどうなるかわからない

という、不遇な立場にあるという認識しているとのことです。

そこでNatureは93ヶ国の7670人のポスドクに、待遇や生活などについてのアンケートを実施したとのことです。

アンケートの結果

(参考:The precarity of postdocs. Chris Woolston. Nature. 2020. 578 (505-508))

研究機関で働きたい?

  • 働きたい 約66%

パンデミック下で人員削減が行われている状況下でも、約2/3が研究機関で働きたいと考えているそうです。

ポスドク生活は期待通り?

  • 期待より良い 12%
  • 期待より悪い 32%

将来について

  • 自分の今後のキャリアに悲観的 56%

自分のポジションについて

  • ポジションに不満 26%

このパンデミック下の1年間で満足度が低下しているそうです。

仕事について

  • 自分の仕事に満足 80%
  • 独立の程度に満足 75%

これについては分野、年齢、ポスドク経験年数によってかなり異なるようで、
分野別では、生態学、進化学(全体の8%)は69%が満足しているとのこと。
一方で、生物医学は満足58%、不満足28%となっており、不満足度は物理学と共に最も高いそうです。

年齢別の満足度については、26~30歳の満足度が66%ともっとも高いそうです。

ポスドクの経験年数の面から見ると、2年未満だと64%が満足しているが、経験年数の増加に伴って、満足度は低下しているようです。

雇用期間・場所について

  • 3年以上ポスドクを経験している 48%
  • 2~3箇所でポスドクを経験した人 30%
  • 4箇所以上でポスドクを経験した人はさらに少数

雇用資金について

  • PIの助成金で雇用 40%
  • 独自に獲得したフェローシップなど 40%
  • 所属機関に直接雇用 13%

プロジェクトの所有権について

自分で独自に獲得した助成金を持っている人で、別の機関に移動するときに助成金をそのまま維持できるかどうかについて、

  • 維持できる 18%
  • わからない 29%

維持できる人は分野によって異なるようで下記のようです。
社会科学 31%
生物医学 17%
化学 11%

PIからの指導について

1週間で研究室の指導教員と1対1でお話できる時間が

  • 1時間以下な人 55%
  • 1~3時間の人 30%ぐらい

収入について(年収)

  • 800万円程度以上 3%
  • 500~800万円程度 42%
  • 300~500万円程度 38%
  • 300万円程度以下 15%

有給について

  • 通常の有給を取れる 84%
  • 有給育児休暇を取れる 50%
  • (育児手当をもらえる 14%)

長時間労働について

所属機関で長時間労働の文化が

  • ある 47%
  • ない 26%

休みの日に仕事したことある

1年間で休みの日に仕事をしたことがある人

  • 20回以上 49%
  • ない 3%

思ったこととか考えたこととか

ポスドク問題は世界的に共通の問題

ポスドクのアンケート結果を見てまず思った事が、「ポスドク問題」って日本だけではなかったのかということです。

ポスドクが抱える待遇などの問題については、科学技術のようなすぐに成果は出ないけれど、投資しておかないといざという時に使えないようなこと、それを実行するための人件費という「目に見えないもの」に投資する事が苦手な印象を受ける日本ならではだと思っていました。

しかし、このアンケートからは世界的にも日本と同様の問題で悩みや不安を抱えている人が意外と多かったように感じました。

研究の満足度と研究体制

不安や悩みがあっても、研究の仕事に対する満足度についてはそこそこ高く、やはり研究が好きな人が多いんだなという事が印象的です。
バイオ系が満足度が低いことについては、おそらく細胞や動物の研究を行うところが多く、そういった研究ではどうしても生活サイクルを細胞や動物に縛られる事が多いからではないかと思います。

企業であれば、シフトで培養や飼育をするのだと思います。
一方で、大学では1人1テーマ以上というのが多いからか、自分のテーマのお世話は全て自分でみたいなところが多いため、平日は深夜も作業、休日もなしみたいな状態になるのかもしれないですね。

記事の方でも、生物医学分野のポスドクは実験室に縛られて、家族や趣味と向き合う時間がないとの回答を取り上げていました。

プロジェクトの所有権の問題

プロジェクトの所有権についてはかなり問題があるのではないかと思います。
特にバイオや化学などの技術に関するものについては、独自に申請したプロジェクトであっても、ベースとなる技術が所属している研究室特有のものだと、扱いが難しいのでしょう。

「その技術を使いたかったら、ここのラボでやればいい、他所のラボに行くなら使わせない」なんて言う人もいたりします。
別に強制力はないのでやってもいいのかもしれませんが、受け入れた研究室の先生がいざこざを嫌がったり、元の研究室の教授などの発言力の強い人が学会などで、「あいつは不誠実なやつ」なんて流布しようもんなら、学会に居場所がなくなるなってしまうので、デメリットの方が大きいですね。

こんな感じでとにかくポスドクは立場が弱いです。

社会学系では助成金の移動は結構できるようで、科学系と違って技術が助成金と結びついていないからこそなのかなと感じます。

業績は誰の元に

上記のような考え方をする人や研究機関もあるので、その技術を使っている以上、ポスドクがどれだけ業績を出しても、その人の業績と言うよりは、その指導教官の業績とみなす人もいるそうです。

これについては、記事の方でも「ポスドクが時間と労力をかけて出した論文が指導教官に助成金をもたらす」という意見もピックアップされており、この認識は結構共通なのではないかなと感じます。

どれだけ頑張っても、査定とかないので、給料が上がらないだけでなく、結局業績としては指導教官がメインのものになるので悲しみが深いですね。

とはいっても、プロジェクトで雇われている場合なんかは、大元のアイデアについてはプロジェクトを取ってきた人(PI)が主な業績者となるのは仕方ないのかなと思います。

問題なのは、そのPIの元でポスドク自身が取ってきた助成金で出した業績も、PIのものと認識される事があるのが問題な気がします。

ポスドクとライフステージ

育児休暇、保障について、近年の社会を見てみると、アカデミアの分野だけではない課題のような気がしますが、ポスドクの30代前後という出産・育児というライフステージとだだ被りなのは、なかなか問題だと思います。

数年間の任期の中で、数年単位かかる出産・子育てをしてしまうと、研究がほぼ進みません。
雇う側も、せっかくプロジェクトを進めるために雇ったのに、長期間不在だと雇った意味がありません。
こんな事があるので、出産・育児のために休暇を申請したところクビにされたなんてひどい噂もあったりします。

確かにポスドクというシステムは、研究プロジェクトのコアの立場で研究に取り組む経験ができるような良いシステムなのかもしれませんが、人間のライフステージとはあまり噛み合わないと思います。
研究機関で働くためのトレーニングとの位置付けだけれど、それは博士課程でやるのがいいんじゃないのかなと感じますね。
むしろ博士課程がそのためのトレーニングの機関なのではないのでしょうか?

という感じで、世界的なポスドクの状況も割と日本と似たようなものだなと言うことを知る事ができた記事だったと思います。
よく日本と海外で比較されることはあるが、海外に出たからといって、必ずしも良いポスドク生活が送れるということではなさそうなのは覚えておきたいですね。

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まとめ

以上、「Natureが調べた世界のポスドクの実態」について、Natureが行なったポスドク実態調査アンケートについての記事から学んだことのアウトプットでした。

そもそも世界的にポスドクってどんな境遇なの?

について、アンケート結果を見ていると、良いポスドク生活を送っている人ももちろんいるけれど、ポスドクの境遇の悪い部分については万国共通の問題ようです。

ポスドクは研究プロジェクトのコアになるような重要な立ち位置になることも多い反面、待遇や境遇については非常に厳しい事がたくさんあります。

それでも研究がしたい、研究が好きというような強い気持ちがその人たちを支えているからこそ、研究が成り立っているところもあると思うと、もう少しポスドクが報われる日が来たらいいなと感じますね。

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