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【Weekly Report15】生成AIの論文検索の有用性、がん接着・遊走性をAIで評価、セラックで新規バイマテの開発

Weekly Report
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今週気になった論文や研究の話題についてのアウトプットです。
主に再生医療・組織工学、培養肉、AIの研究が中心。

今週(2023.12.11〜12.17)気になった研究・話題は以下の通り

  • 生成AIの医療分野での論文検索の有用性
  • がんの接着・遊走性をAIで評価するin vitro評価系
  • セラックで新規バイオマテリアルの開発
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生成AIの医療分野での論文検索の有用性

生成AIの活躍が日々色々な所で聞き、「生成AIが使えることが当たり前」という世界が本当に来るのではと思うぐらいの勢いですね。
情報漏洩などの対策も結構進んできているようで、実際に企業の導入事例を聞いていたり、自分のところでも導入を進めていたりと仕事にも本格的に導入されて行きそうです。

自分も実際にAIを使って作業効率の改善等を試みていますが、今のところ毎日使うぐらい有用だと感じたことは

  • プログラミングのコード生成、エラー発生時の相談、コードのコメント付け
  • 論文検索

というところでしょうか。

論文検索を実際にやっていて感じるのが、「AIが探してきた論文はどれほど実用的なのか?」という点ですね。
まぁ論文なんで自分が「こんな感じのやつ」というのが見つかればそれで良かったり、データベースで直接調べるよりはツールを使ったほうが探していた論文が見つかるまでの時間が圧倒的に短くなるのでその時点で有用とは言えますが、これはあくまで個人の感想でしかありませんからね。

AIを使った論文検索がどれほど良いものかということを客観的に伝えるというのが困ったものでした。

そんな中、生成AIは医療分野の文献収集にどの程度使用できるか?を検証した研究が面白かったです。(日本の研究.com

研究の内容は

  • メタアナリシスを行った際の論文選定プロセスを生成AI(ChatGPT、Elicit)で行った。
  • ChatGPTは実在しない論文を提示してきた一方で、Elicitは実際に行ったメタアナリシスに使用した論文と同程度の精度で論文を選定できた。

というものだそうで、AIを用いて選定した論文はそれなりに実用的であるということが示されていました。(PubMed

Elicitを用いた選定では、見落としていた論文もある一方で、新しい論文もピックアップできたようで、これまでの論文検索手法の一つのツールとして取り入れるとかなり効率化できそうですね。

実際に自分もAIの論文検索ツールを使用して、これがどの程度有用なのか、信頼にたるものかということを社内で提示しようとしていましたが「どう示したものか…」とか「この検証をすることが本業でもないし」と困っていました。

今回この論文が出たことで、権威性をつけてAI論文検索ツールが有用であることを提示することができるかもしれませんね。

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がんの接着・遊走性をAIで評価するin vitro評価系

in vitroの細胞を用いた評価系でAIを用いた解析がどんどんと出てきているように感じます。
特に画像解析で細胞の領域を認識して面積を算出したり、細胞の個数をカウントしたりと、閾値とかを駆使する方法もありますが、正確ではないし、画像ごとに一定の値を用いることも難しいので、AIを用いた認識ができると効率化だけでなく、正確性も改善できます。

そこで気になったのが、膵臓がんの広がりをAIで認識してがん細胞の接着や遊走能力を評価した研究です。(日本の研究.com

内容は

  • 低接着培養プレートで膵臓のがん細胞を培養しスフェロイドを作製。凝集の状態をAIによる画像解析で細胞間の接着能力を測定
  • 構築したスフェロイドを細胞接着性のプレート上で培養することでスフェロイドを基板に接着、スフェロイドからがん細胞が基板上に広がった様子をAIによる画像解析で細胞の遊走能力を評価
  • 細胞の株や上皮由来、間葉由来でスフェロイドの形成や遊走能力に違いが見られた

というもので、スフェロイドという3次元の組織から細胞が広がる様子が生体内のがん組織からの浸潤を再現でいているのではとのこと。(PubMed

この研究で使用されているAIによる画像解析手法はSCREENホールディングスの「Cell3iMager duos2 software」というものだそうで、非常に正確に細胞の領域を認識できる性能を持っていて注目技術の一つです。

細胞の画像解析で、染色をしていれば割と細胞の認識は楽なのですが、非染色となると難易度が一気に上がります。
細胞の本来の挙動を正しく解析するためにも染色や蛍光を用いた方法は避けられるなら避けたいところです。
そんな中でAIによる画像解析は細胞に手を加える事なく解析できてしまうので本当に魅力的ですね。

がんの浸潤の方では2次元培養を用いた遊走能力の評価手法はこれまでもありましたが、体の中の状態を再現できているわけでは内ので、どこまで正確な評価なのか判断が難しいところでした。

この研究では3次元の細胞の塊にすることで、実際のがん組織のような状態を模倣し、その細胞の塊から細胞が広がる様子を捉えることでより体の中のがんの遊走に近い現象を再現できているのではということで、こういったモデルをどう考えていくかというのはin vitroの評価系の構築の醍醐味だと感じました。

まだプラスチック上での細胞の広がりなので、これからの研究でECMなどを用いてより体内に近い環境を再現できると魅力的な評価系になりそうですね。

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セラックで新規バイオマテリアルの開発

再生医療・組織工学で欠かせない材料の一つが足場材料になるバイオマテリアルです。
バイオマテリアルは細胞の機能・分化・増殖を制御することで、培養皿上で細胞を操ったり、体の外で組織を作ったり、体の中では臓器の修復をするなど様々な用途に使用することができます。

そんな中、「セラック」という「ラックカイガラムシ」が分泌する天然樹脂をバイオマテリアルとして応用する研究が興味深かったです。(日本の研究.com

これまでセラックという材料は聞いたことがなかったのですが、これはチョコ菓子や錠剤の表面のコーティング剤として使用されてきた身近な材料のようです。

既に産業利用されている天然樹脂材料ですが、これまでバイオマテリアルとして使用されてこなかった理由は、細胞接着性がなかったからとのことです。

研究の内容は

  • セラックのカルボキシル基に親水性・疎水性の置換基を導入すると、疎水性の置換基のときに細胞接着性を付与できた。
  • ヒドロキシアセトフェノン基を導入すると、UV(340 nm)を24時間ぐらい照射することで、細胞接着性の有無を制御することができた。

というもので、細胞接着を制御できる新たなバイオマテリアルが登場したということですね。(PubMed

疎水性の置換基を導入する事による細胞接着性が付与できるメカニズムとしては、元のセラックはやや親水性気味(接触角60°程度)でタンパク質が吸着しにくかったものが、疎水性置換基を導入することでやや疎水性になった(接触角70°程度)になったことでタンパク質が吸着できるようになったということになりそうですね。

あとは、電荷についても考察されており、正の電荷を持っている置換基ほど接着が良くなるとのことです。

ヒドロキシアセトフェノン基を導入したセラックはそのままだと細胞接着性を示し、UV照射をするとヒドロキシアセトフェノン基が切断されて細胞接着性がなくなるという結果があったことから、光で材料特性を制御できる点が材料として色々できそうな感じで魅力的でした。

ただ、現在の状態では細胞接着性の有無をコントロールするためには24時間のUV照射が必要とのことで、細胞へのダメージが気になるところですね。

細胞に対するUV照射はしなくていいならしないほうが良いですし、どうしても必要な場合はなるべく短い時間にしたいところなので、細胞を培養している途中で材料特性を変更して細胞を剥がすなどの制御をしたいときはもっと短い時間で操作できるような工夫が必要になりそうです。

この報告ではカバーガラス上にセラックをスピンコートして形成したフィルムで培養をしていましたが、ハイドロゲルを作ったりすることができるのかというところも組織工学研究者として気になるところですね。
今後の報告が出てくるのが楽しみな研究です。

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