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アポトーシスは周囲の組織に対して抗炎症作用を示すらしいメモ

Science Memo
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本記事では「アポトーシスは周囲の組織に対して抗炎症作用を示すかも」についての研究論文を読んで学んだことをアウトプットします。

アポトーシスというプログラム細胞死については、多分かなり多くの人が聞いたことあると思います。
おたまじゃくしの尻尾がカエルになるとなくなるのとか、ヒトの手の水かきがなくなるとかで有名ですね。

今回読んだ論文では、これまでわかっていなかった、
アポトーシスが抗炎症作用を示すこと、そしてその因子についてわかったとのことです。

恥ずかしながら、アポトーシスについてどこまでわかっていてどこからわかっていないのか、全然わかっていませんでした。
滅多に読まない基礎系の論文ですが、この論文で一つ勉強してみようと思います。

論文情報

Metabolites released from apoptotic cells act as tissue messengers. (PubMed)
Media C.B. et al. Nature. 2020. 580(7801) 130-135.

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アポトーシスとは

アポトーシスは「細胞死」の一つです。
さらに言うと、遺伝子的に計画的に引き起こされる細胞死の一つですね。

ギリシャ語に由来して「花びらが花から落ちる」「葉が木から落ちる」という意味があるそうです。

有名なものは、

  • おたまじゃくしからカエルになるときに、尻尾がなくなる
  • ヒトの手の指の水かき部分がなくなる

などの発生の分野でよく知られていると思います。
再生医療も結構注目されている現象ですね。

体の組織中の細胞環境の維持や、炎症を起こすことなく不要な細胞を除去する(ターンオーバーとか)、体にとって必要な現象だそうです。

アポトーシスについて新しくわかったこと

これまでわかっていた事わかっていなかった事

アポトーシスという言葉自体かなり有名なので結構わかっている事が多いのかと思っていました。
実際にこの論文を読んでみると、まだわかっていない事が多いとのことです。

これまで解明されていたことは、

  • アポトーシスによって分泌される因子は周囲の細胞・組織に何かしらの影響を与える
  • 分泌される因子の働きについては貪食細胞を呼び寄せるものばかり

これ以外はあまりわかっていないとのことです。

その中で、今回読んだ論文では、

  • そのほかの因子の特定
  • その因子が周囲の組織に与える影響(特に抗炎症作用について)

について調べて見たそうです。

新しくわかったこと

実験の詳細についてはこちらの元論文を。
Natureダイジェストに日本語版も載っているので、読み慣れてない人はぜひこちらを読んでみるとわかりやすかったです。

in vitroの実験にて、数種類の細胞を使ってアポトーシスを起こしたとき、代謝物について解析すると、どの細胞からも共通して放出されている数種類の因子が見つかったそうです。
具体的には下記の8種類。

  • スペルミジン(spermidine)
  • グアノシン一リン酸(GMP)
  • イノシン一リン酸(IMP)
  • アデノシン一リン酸(AMP)
  • フルクトース二リン酸(FBP)
  • ウリジン二リン酸グルコース(UDP-glucose)
  • ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)
  • グリセルアルデヒド-3-リン酸(G3P)

これらの因子は、一つずつでは作用しなかったけれど、6種類(スペルミジン、FBP、DHAP、UDP-glucose、GMP、IMP)3種類(スペルミジン、GMP、IMP)でまとめて添加(in vitro)したときに、抗炎症やマクロファージの形態、代謝についての遺伝子発現に影響を及ぼしたとのこと。

実際に体の中でも働くのか調べてみるために、マウスにこの6種類(または3種類)を投与すると、関節炎や肺移植の免疫拒絶を抑制する事がわかったそうです。
つまり、アポトーシスから分泌された因子は、周囲の組織の炎症を抑える働きもあるのでは?とのこと。

また、アポトーシスを引き起こすと、その時点で細胞を活動をやめる訳ではなく、抗炎症作用を持つような代謝物を常に合成し続けて、周囲に放出しているとのこと。
立つ鳥跡を濁さずというかんじですね。

なぜこの特定された因子が抗炎症作用を持っているのかと言うと、
イノシンは抗炎症作用があり、マウスの実験にて細菌感染による炎症を防ぐ事が知られているそうです。
またスペルミジンはたくさんの役割をもつ中で、抗炎症性のシグナルを増幅させる作用を持つ可能性があるらしいです。

これからの課題

まだわかっていない事は下記のことだそうです。

  • アポトーシスで代謝の変化が起こる仕組み
  • 放出された分子が組織に影響する仕組み
  • アポトーシス以外の細胞死である、ネクローシスのような炎症を起こすようなものについても、どんな代謝に変化があるのか、その機構は何か?

まだまだわかっていない事が多いんですね。
有名な現象なのでかなり意外でした。

思ったこととか考えたこととか

再生医療でもアポトーシスやネクローシスというのはよく耳にします。
アポトーシスは発生で重要な現象ですし、体の機能維持でも重要な役割と聞いています。

普段読まない分野の論文なのでなかなか読むのが大変で、理解も十分にできてはいないですが、アポトーシスもまだまだわからない事が多かったのだなと感じました。

特に炎症について、再生医療の分野では

  • なるべく起こさない方がいい
  • 起こすことによって再生が進む

などの見解があり、実際のところはどうなんでしょうね。
(思いはするが調べる優先度は低いですが…)

ネクローシスは炎症を起こし、アポトーシスは炎症を起こさないとは聞いていましたが、アポトーシスはさらに抗炎症作用もあるというのは驚きでした。

この論文では抗炎症作用の作用を持つ因子についていくつか特定できたとのことでしたが、この因子を使えば炎症に対する治療ができるのでは?とも思いました。
とはいえ、誰でも考えることで、論文の方で先回りされていましたね。
マウスでは確かに劇的な抗炎症作用を示していたが、ヒトでは受容体の作用が弱いらしく(イノシンによる抗炎症作用はマウスの1/10とか)、そのまま治療に応用するのは厳しいとのことです。
残念です。

スペルミジンについては幹細胞の分化とかにも使えるんじゃない?みたいな話を聞いた事がありますが、まさかアポトーシスで抗炎症作用の働きを持っていることについても驚きました。
(そういえばその論文も抗炎症作用が分化誘導に云々と書いてあった気がします。少し怪しそうな論文だったのであえて紹介はしませんが….)
論文中でも役割が多い因子というように書かれていましたが、本当にどこでも働いているんだなという印象です。
色々な論文を読んだらもっとスペルミジンに出会う事がありそうですね。

普段触れない基礎系の論文を読んだからこその感想ではあるかもしれませんが、
アポトーシスのような有名な現象だからこそ、だいたいなんとなく知っていると思っていました。
でも、原理的なところについて、「何がどう働いてそうなっているのか?」については理解できていないどころか、「そもそもどこまでわかっていて、どこからわからないのか」自体わかっていませんでした。

応用系の分野にいると基礎という土台が必ず必要で、特に原理原則について、新しいことは発見できなくても、すでに解明されていることは理解しておかないと応用どころの話ではないのでしっかり勉強しないとなと感じました。

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まとめ

本記事は「アポトーシスは周囲の組織に対して抗炎症作用を示すかも」が実証された論文について読んで学んだことのアウトプットでした。

アポトーシスはただの組織形成やターンオーバーを担う役割だけでなく、周囲の組織に対して抗炎症作用も持っているそうです。
さらには、アポトーシスが起き始めても、抗炎症作用を持つ因子を作り、放出しているとのことです。

ヒトへの治療の応用は難しいとのことでしたが、こういうひとつひとつの現象の解明の積み重ねが応用に繋がるので、これから新しい発見に大きく期待ですね。

新しめの論文を読むと、その現象についてわかっていること、まだわかっていないことを把握できるのでいいなと感じました。
ただ、読み慣れていない分野なので理解するのに時間もかかるし、それでも完全に理解できていないので大変ですが…

ブログでアウトプットとかしないとなかなか手をつけないので、これをきっかけに普段触れない論文にも触れていきたいと思います。

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