本記事では「実験医学 2022年2月号」を読んだ感想をアウトプットします。
最新の生命科学、医学の情報がわかりやすくまとめられた雑誌です。
おそらくバイオ系医学系の研究室には常備されていると言っても過言ではないくらい有名な雑誌ですね。
2022年2月号の実験医学では、
- 細胞老化と疾患、治療法についての特集
- AlphaFoldとは何か?何がすごいのか?
- 細胞農業(培養肉など)のカンファレンスレポート
などなど、今月号もとても面白く、勉強になる記事がたくさんありました。
「実験医学 2021年12月号」を読んだきっかけ
大学から離れて、バイオ系の研究の世界の情報にアクセスするためのツールとして購読する価値が大きいなと思い、毎月購読しています。
普段触れることが少ない分野について触れるきっかけになる、読み易いけれど読みごたえがある素晴らしい雑誌ですね。
前回の感想記事はこちら
2022年2月号で特に私自身面白いと思ったのが下記の内容です。
- 細胞老化と疾患、治療法についての特集
- AlphaFoldとは何か?何がすごいのか?
- 細胞農業(培養肉など)のカンファレンスレポート
「実験医学 2022年2月号」を読んだ感想
細胞老化と疾患、治療法についての特集
2月号の特集のテーマは「老化細胞を標的としたSenolyticsへの挑戦」とのことで、老化と加齢による疾患について、細胞レベルの観点からアプローチした研究の記事が特集されていました。
老化と聞くと「アンチエイジング」と世間一般ではよく耳にしますが、本当かどうかわからない怪しい情報が溢れています。
この特集では、
- 細胞の老化とはどんな状態か?
- 細胞が老化すると何の因子がどのように働くのか?
- 加齢による疾患は本当に老化細胞が原因で生じるのか?
- 加齢性疾患の治療方法はあるのか?
などなど、基礎的な部分から治療法の開発といった応用まで、根拠となる研究が示されながら知ることができる素晴らしい特集でした。
細胞老化とは、「不可逆的な細胞周期の停止が起きていること」や「特異的なマーカーが発現していること」と定義づけられているそうです。
また老化した細胞はよくないものという認識が強いですが、がん抑制機構として重要な役割を持っているとのことです。
しかし、老化細胞から分泌される因子が正常な細胞へ悪影響を与えることで疾患に繋がっていることも明らかになっているようで、良い面もあり悪い面もある状態とのこと。
細胞老化の研究を進める中で老化した細胞を除去することが、加齢性疾患の症状を抑制することに効果的であることが明らかになってきているようです。
ただし、老化細胞はがん抑制などの良い面もあるとのことで、除去する細胞の選択が重要であるなど、まだまだ課題が多いとのこと。
このような老化細胞を除去する薬剤を”senolytic drug (seno=老化、lytic=溶解)”と言うようで、覚えておくと良いかもしれません。
この特集を読んだ感想として、
私自身これまで老化については曖昧な印象が強く、なかなか胡散臭いものを感じていましたが、この特集記事を読んで、真っ当な研究分野として定義づけや検証をしっかりしながら進んできていることを知ることができました。
(世の中に出回っている情報が酷すぎますね)
老化細胞の特徴について、細胞老化によって疾患が生じたのではなく、「疾患が起きたから細胞がその特性を示しているのではないか?」など読んでいて考えましたが、そこについてもしっかりとフォローされた解説がされていました。
おそらく誰しもが思うところであり、そういった問答を繰り返しながら検証されてきているのだと感じました。
医療などが高度化していきている影響で長寿命化が問題になっている昨今、いかに健康寿命を伸ばしていくかがポイントであるという話はよく耳にします。
この細胞老化の研究はただ寿命を伸ばすだけでなく、疾患の抑制という伸びた寿命の中で健康に生きる時間を伸ばしてくれるものになったらいいなと思います。
AlphaFoldというタンパク質立体構造予測プログラムとは何か?何がすごいのか?
AlphaFoldというタンパク質立体構造の予測プログラムがすごいとのことで、以前twitterでもタンパク質分野の人たちがかなり話題にしていて、存在は耳にしていました。
恥ずかしながら、タンパク質はメインの分野ではないのでそこまで興味が湧かなかったのですが、この記事を読んで
- AlphaFoldとは何か?
- どうして正確に予測できるのか?
- どこまでできてどこまでできないのか?
について、専門外の自分でも知ることができるほど、わかりやすく解説されていました。
正確に予測するためのモデルは膨大なデータと深層学習のプログラムの両方があって成り立つもので、良いプログラムがあるから正確になるわけではなく、予測の元になる膨大なデータも大事だそうです。
実際に、シーケンス技術によって解読された大量のアミノ酸配列データの蓄積や、鋳型タンパク質の立体構造情報が精度向上に重要だったとのことです。
機械学習全般に言えることですが、精度のよい予測モデルを作ることができたから実験をしなくてもよくなるというわけではありませんね。
膨大な実験データがあったから精度がよくなっているわけで、新しいモデルを作ったり、より性能を向上させたりしようとした時には、それを叶えるためのデータが必要であり、そのデータの取得が重要になってくると思います。
また、機械学習あるあるだと思いますが、正答率が高く予測できるからといって結果を鵜呑みにする人もいます。
しかし、そのモデルがデータの何に注目してどのように予測しているかを把握しておくことが大事です。
AlphaFoldも得意、不得意な予測があるそうで、それがどういう部分なのかを把握しておくことが研究・応用に役立てる上で大切なことと記事中でも述べられていました。
予測モデルは使いこなすことができれば非常に強力な道具ですし、何より実際に膨大な時間と手間と資源を用いなくてもそれっぽい結果が出てとても面白いことは間違いないので、タンパク質を知っている人たちがAlphaFoldで色々予測して盛り上がっているのは楽しそうでいいなぁと思いました。
細胞農業(培養肉など)のカンファレンスレポート
近年、細胞農業という特定の細胞を培養することで、動物や植物から収穫される産物を生産するものが注目されています。
代表的なものとして「培養肉」が最近の話題でホットですね。
この細胞農業についての議論の場「細胞農業会議2021」のレポート記事が掲載されていました。
再生医療での組織構築技術を応用して、肉の組織を再現することでステーキ肉の食感も再現しようとする取り組みをしている研究がとても興味深かったです。
また、3Dプリンターやオルガノイド技術を使った培養肉の作製方法の研究も取り組まれているようでとても面白そうな分野だと思いました。
肉といっても、ウシだけでなく、ニワトリ、イセエビなど様々な肉の開発に取り組まれているそうです。
科学技術的にはとても面白い取り組みだと思いますし、未来の食料問題の解決にも重要な課題でもあります。
しかし、自分の周りでもまだまだ培養肉に対して抵抗感が強い人が多いといった、受け入れてもらえるかということも技術の外の課題としてあるのかなと思いました。
とはいっても、車やスマートフォンなど開発された当時は「そんなもの…」とネガティブな印象が強かったですが、現在は当たり前のように使っていることを考えると、そう遠くない未来に当たり前の食材として食卓に並んでいるかもしれませんね。
まとめ
以上、「実験医学 2022年2月号」を読んだ感想のアウトプットでした。
2022年2月号の実験医学では、
- 細胞老化と疾患、治療法についての特集
- AlphaFoldとは何か?何がすごいのか?
- 細胞農業(培養肉など)のカンファレンスレポート
が個人的にとても印象に残る記事でした。
細胞老化の特集記事については、先日参加した学会でちょうど細胞老化の話題があり、この記事を読んでいたのもあってすんなり理解することができたので、視野を広げるためにも浅くても少しでも触れておくことの大切さを再確認できました。
生命科学や医学の世界についての情報を幅広く知ることができる素敵な雑誌だなと思います。
そして、この情報を通して、考えたこと・思ったことから、「自分はどうする?」を考えさせられる良い時間になるなと思いました。
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