本記事では「ユニバーサル細胞」について紹介した記事を読んで学んだことをアウトプットします。
現在、「ユニバーサル細胞」という技術が再生医療の細胞ソースとして注目されています。
再生医療では主にiPS細胞やES細胞をはじめとした幹細胞が使われています。
しかし、製品の供給スピードやコストの面から、本人の細胞(自己)ではなく、他人の細胞(非自己)を用いた製品作りに向かっています。
この時の課題が、他人の細胞を使うことの「免疫拒絶」です。
この免疫拒絶を回避するため「ユニバーサル細胞」という免疫拒絶を引き起こさない細胞が研究されているとのこと。
ユニバーサル細胞とは
1種類の細胞で免疫拒絶を気にすることなく、全ての患者に対して「普遍的」に使用できる細胞のことです。
これまでは患者ごとに合わせて免疫が起きないように細胞を使い分けてきたり、患者由来の成体幹細胞を用いたりして免疫拒絶の課題に取り組んでいました。
しかし、細胞の使い分けや、必要になってから患者から細胞を採取するのは時間とコストがかかります。
これらの課題を解決すると期待されているのが「ユニバーサル細胞」です。
免疫拒絶を起きないようにすることで
- 誰にでも使える
- 製品のストックができる
という恩恵が期待されています。
免疫拒絶はなぜ起こるのか?
体は自己と非自己の細胞を、HLA(MHC)という因子で認識し、区別しています。
免疫拒絶の主役であるT細胞が最初に認識するのがこのHLAという因子であると言われています。
HLAには、ほぼ全ての有角細胞で発現する「HLAクラス1」と、主に抗原提示細胞で発現する「HLAクラス2」という大きく分けて2つの種類があります。
各クラスの機能は下記の通り。
- HLAクラス1の機能
CD8陽性キラーT細胞へ抗原提示を行う - HLAクラス2の機能
CD4陽性ヘルパーT細胞へ抗原提示を行う
どうやって免疫拒絶を回避するか
その方法は単純明快で、「HLA分子を細胞表面から除去する」という方法です。
HLAがないと、細胞はキラーT細胞やヘルパーT細胞に異物として認識されなくなります。
この研究の例として、2013年にワシントン大学David Russelらのグループが相同組換え技術でHLAクラス1を除去したヒトES細胞の作成を報告しているそうです。(PubMed)
ただし、HLAクラス1分子はNK細胞の抑制に重要な働きを持っているそうです。
したがって、HLAを持たないと、T細胞から攻撃を受けなくなるものの、NK細胞に攻撃されるようになるそうです。
これに対しては、人工的にNK細胞を抑制するような分子を細胞に発現させる方法で解決を試みている研究があるそうです。
とはいうものの、その方法を持ってしても一部のHLAの型をある程度適合させないといけないようで、厳密にはユニバーサル細胞とは言えないとのことです。
ユニバーサル細胞の課題
ユニバーサル細胞が抱える課題は下記の2点とのことです。
- 場合によって使い分ける必要がある
- 外部からの攻撃に弱くなる
「誰にでも使用できる」という特徴を持つものの、移植する細胞種、標的組織部位、対象疾患に応じて最適な方法が変わる可能性があるというのが、現在の研究で懸念されていることの一つだそうです。
また、HLAは抗原提示に必須な因子です。
そのため、多数の複雑なウイルス、細菌毒素、腫瘍などの侵入を感知して対応するためには、抗原を細胞表面に出す必要があります。(参考:日経バイオテク)
ところが、HLA全欠損した細胞では原理的に抗原提示ができなくなるので、これらのような場面に対応できるのかを今後見極める必要があるとのことです。
ユニバーサル細胞の応用について
輸血用の血小板の作製
輸血した血液の中の血小板が免疫拒絶を起こす、血小板輸血不応症というものがあるそうです。(参考:日本赤十字社)
これを解決するために、iPS細胞とゲノム編集技術を用いることで、iPS血小板からHLAを欠損させたものを作製した研究が報告されています。(参考:AMEDプレスリリース)
この研究の動物実験では、抗HLA抗体からの攻撃を受けなかったことはもちろん、NK細胞からの攻撃も受けなかったという結果が出たとのことです。
課題として懸念していた現象が起きなかったということですね。
思ったこととか考えたこととか
ユニバーサル細胞と並ぶもう一つのiPS細胞における免疫拒絶の対策が、CiRAで取り組まれているiPS細胞ストックですね。(参考:CiRA)
免疫拒絶が起きにくいタイプのHLAを持つドナー由来の細胞からiPS細胞を作ることで、多くの人に適合するiPS細胞を作り、ストックしておくプロジェクトです。
このiPS細胞のストックによって、必要な人に適合するiPS細胞を1から作製するよりも早く患者に使用することを目指しているそうです。
私の知るところではこのiPSバンクの細胞とユニバーサル細胞が免疫拒絶を回避する方法として注目されている2大技術だと思います。
今の所、どちらが優れているというわけでもなく、どちらにも一長一短の特徴があります。
本文でも述べましたが、ユニバーサル細胞はほぼ全ての人に適用できる可能性を秘めています。
あらかじめ、再生医療の製品を作っておけば誰にでもすぐに適応できるという大きなメリットがあります。
一方で、ウイルスや細菌など、体の外からの反応しなければいけない攻撃への対処ができなくなる可能性があるというのが大きな欠点でしょうか。
iPS細胞ストックはユニバーサル細胞のように全ての人に適用することはできませんが、本来の免疫の機能は維持されているので、必要な防御反応の心配はない可能性が高そうです。
ただし、広くをカバーできているとはいえ、患者に合わせて使い分ける必要があります。
患者が必要とするiPS細胞製品の供給は、適合する患者に応じた細胞を選択してから作り始めなければいけないので、供給までに時間がかかってしまいます。
そして、その分の製造コストもかかってしまうでしょう。
どちらが優れているという状況ではないので、どちらも研究を進めて、知見をかき集めて色々な視点から考えていかないとブレイクスルーはできないのではないのかなと感じます。
過去記事でも再生医療の10年間の変化についてアウトプットしましたが、再生医療を普及させるためには機能する製品を作ることも課題であることに加え、今回のような免疫拒絶を起こさないなどの安全性も考えていかなければいけませんね。
色々と注目を集める分野ではありますが、実用化まではかなり長い道のりになりそうです。
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