本記事では「チャランケ物語 富士フイルム変革「敗戦」記 ミドルが仕掛ける企業変革」を読んで学んだことをアウトプットします。
富士フイルムが事業転換をしたのは有名なお話ですが、その時内部でどんなことが起きていたのかが記された良本でした。
科学技術を使った製品を扱う人にとっては、
- 技術という見えない資産を守るためにはどうする?
- 組織の上層部に研究開発が理解してもらえないのはなぜ?
という、解決すべき重要な課題についての一つの回答が示されています。
最終的には変革は敗戦という結果に終わったそうですが、その中で本気で「技術」について向き合ったことについては参考になることばかりでした。
個人的に重要だと感じたことは下記の4つです
- 技術の棚卸し
- 事業全体の絵を描く戦略の立て方
- 技術は見えない資産である
- 技術改革の4つの壁
研究開発という立場にいるからこそ、「自身が扱う技術とは何か?」「その技術を使って何をすべきか?」について考えさせられました。
「富士フイルム変革「敗戦」記」を読んだ理由・きっかけ
現在所属している企業で、これまで取り組んでいなかった新規的なテーマに従事しています。
これまで扱っていなかったからこそ、ある程度のものができても、上層部がどうしたらいいのか把握できていないことや、納得してもらえず次に進めることができないことに困っている状況でした。
そんな中、富士フイルムはこれまで主力だったフイルム事業からうまく事業転換し、現在はこれまでとは異なるうフィールドで活躍しているお話を聞いて、
なぜそんなことができたのだろう?
中でどのようなことが起きていたのだろう?
これを知れば、現在の上層部とのズレを解消しより研究開発を進めることができるのではないかと期待して手に取ってみました。
読み終えて、会社が抱えていた問題も、それに対する取り組み方もまさしくお手本のようで、手に取って本当によかったと感じるほどの良本でした。
「富士フイルム変革「敗戦」記」で解説されていること
章構成
はじめに
チャランケ物語 富士フイルム変革「敗戦」記 ミドルが仕掛ける企業変革、目次
第1章 統括部長全員対象「経営戦略研修」
第2章 プロローグ
第3章 顔合わせ
第4章 なぜ技術戦略なのか。本題の本質は戦略にあり〜初期の活動
第5章 「キー技術」と「技術の核」〜技術戦略の構築は技術の棚卸しから
第6章 10年後のドメイン(戦略的事業領域)と戦略的な「技術の核」づくり
第7章 経営トップへのアプローチ
第8章 待ち伏せ戦略への転換
第9章 なぜ「善戦」に終わったのか〜乗り越えられなかった四重の壁〜
第10章 なぜ「善戦」できたのか:志の高い目標、刺激的な場、多様・異能の個人の共振
第11章 歴史に刻まれた戦いの足跡
第12章 メンバーに残った財産
第13章 富士フイルムに何が残ったのか
第14章 チャランケ流「技術戦略の思考法」
第15章 「パラダイム変革」の運動論
おわりに
解説されていること
この本は「フイルム産業の衰退の中で、富士フイルムがどのようにして事業転換を行ったのか、その中で誰が何に取り組んでいたのか」を記した本でした。
会社の人事や研究開発に携わる人たちが、
- 自身の持つ技術は何か?
- それをどう製品開発に繋げるか?
- どう上層部を納得させるか?
についての、奮闘が描かれていました。
結果は、タイトルにあるように「敗戦」だったそうですが、現在の富士フイルムの事業転換の様子をみていると、成功しているのではないかと思ってしまいます。
具体的に取り組んでいたことは、
- 自分たちの技術の本質について向き合う
- 技術を用いて商品を開発するための戦略を考える
- 上層部を変化させられない原因は何かを考える
という、言われてみれば当たり前ですが、おそらく大部分の人が考えている以上のレベルで真剣に向き合っておりど肝を抜かれました。
このなかで個人的に重要だと感じたことが
- 技術の棚卸し
- 事業全体の絵を描く戦略の立て方
- 技術は見えない資産である
- 技術改革の4つの壁
という点でした。
「富士フイルム変革「敗戦」記」から学んだこと、考えたこと
感想
とにかく研究に携わっている人には絶対に読んでほしいと思う良書でした。
研究に携わっていない経営側の人にも知ってもらいたい、理解してもらいたいと思う良書でもありました。
要点としては、「傾きつつある会社を立て直すために、新規事業をいかに経営陣に納得してもらうか」ということでしたが、それに取り組む姿勢と深さがとんでもなかったです。
- 技術とは何か
- 問題の根本はどこか
- 戦略を立てるとはどういうことか
- 障害となる壁は何か
を、ひたすら突き詰め続けて、ようやく本質にたどり着くという、まさに研究者や技術者のお手本となる姿でした。
ここまでやっても敗戦になってしまったということで、ただ正論を述べて管を巻いているだけでは絶対に変えることができないと感じます。
これ以上のことを本気でしないと会社は変わらないんだなということを知ることができました。
ただ、現状としては会社の上層部(経営陣)を変えるには、成功体験を上書きする他ないであろうことで、技術者や研究者にできることは、とにかく小さな成功を積み上げていくしかないということです。
その小さな成功を掴むためにも、この本で解説されている「技術と戦略の本質」は欠かせないものであると感じました。
「この研究役に立つの?」「結局この研究で何ができるの?」と聞かれて、相手を納得させる答えができなかったことがある人は必見だと思います。
技術の棚卸し
技術の棚卸しというのは、現在自分たちが製品を作るために用いているコアとなる技術を見極める作業とのことです。
そんなの知ってて当たり前と感じる人も多いと思いますが、実際にやってみるとかなり大変な作業らしいです。
というのも、意外と認識されないまま何かの製品と紐づいていたり、各所に分散したりしていて、実際にその作業に携わっていないと気づくことができないとのこと。
また、技術と機能は違うものであり、価値を生み出しているものを的確に見極める必要があるとのことです。
確かに自分も、所属している会社のコアとなる技術については自分が担当している以外の分野は把握できていません。
実際に、この本を読んだ後、チームの人と考えてみたけれど、そもそも自分たちの部門以外のところは聞いてみないとわからないと結論に至りました。
そして、この難しいところを考えるための指標が、「技術の核」と「技術の3要素」とのことです。
<技術の核>表面的な理解にとどまらず、はらわたに沁み込むまで議論
「”技術の核”の概念は、どれだけ役に立ったかわからない。どこに研究投資をしたらいいのかを決めるときやM&Aなどを決断する際に、重要な概念。」<優位性>競争優位の源泉は何か、本当に優位性があるのか
「(いろいろなことが)できる」と「(圧倒的に)勝てる」は全く違うが、その峻別の難しさを痛感させられるプロセスだった。<発展し、汎用性>「本気になって」調べないとわからない
チャランケ物語 富士フイルム変革「敗戦」記 ミドルが仕掛ける企業変革、p51
この中で特に優位性の「できる」と「勝てる」の違いが確かに難しく、でも重要なことだなと感じました。
研究でも異なる技術を用いても、最終的に同じことができてしまうことはよくあります。
多少の効率やメリットデメリットはあれど、できることが変わらないというやつです。
こうなると、「その技術でやる意味ある?」とか「すでにできてるけれど何が新しいの?」ということを言われてしまいます。
これが「できる」ということなのだろうと思います。
一方で「勝てる」というのは、「この技術じゃないとできない」とか「他の追随を許さないくらい効果的」というレベルなのでしょう。
ここまでのレベルまで引き上げるためには、技術の原理原則をしっかり理解した上で、最も効果を出すことができる系というのを考えるしかないのかなと思います。
私の専門分野である再生医療・組織工学で考えると、臓器の大まかな構造はどの技術でも再現できるでしょう。
しかし、内部のマイクロレベルでの構造はこの方法でしか再現できない。という論理的な部分。
そしてそれを裏付けるための、その構造を制御できているからこそ、発現している高い機能を示す。
というところまで突き詰めてこそようやく「勝てる」というレベルに到達できるのでしょう。
正直、アカデミアであれば、方法が違えば、他と同じような結果でも質のそんなに高くない雑誌に論文として出すことができるので、そこまで本気で考えてやらない人もいるのも事実です。
企業では、競合他社といった多くの選択肢の中から選ばれ続けなければならないので、このレベルで考えることはマストであると思うので、心してかからねばいけませんね。
事業全体の絵を描く戦略の立て方
この本では、技術をいかに形(事業)にしていくかという点において、「戦略」が重要という結論に至っていました。
この「戦略」についてどう考えるかというと、「事業全体の絵」を描く方法が有効とのことです。
「全体の絵」を描く、その絵の中に自分のテーマを位置づける
「それまで、自分の担当分野でも「事業全体の絵」を描いたことはない。関心はそのパーツパーツばかりだった。他の日本企業もそう。お手本が常にあって、もがいてもがいて、気がつけば一番にいた。「絵」を描いてここまできたわけではない。しかしこれからは「絵」を描かないでやっていけるとは思えない。」
「自分の活動の全社における位置付け、理屈付け、正当性の確認ができた。」
チャランケ物語 富士フイルム変革「敗戦」記 ミドルが仕掛ける企業変革、p133
これについては、過去記事でテーマの作り方についてアウトプットしたことににているなと感じました。
このテーマの作り方にシフトしたことで、「この研究役に立つの?」「結局この研究で何ができるの?」と聞かれることが激減しました。
なぜなら、最終ゴールとそれを達成するために、用いた方法がいかに妥当であるかを示しているからです。
まさにこの本で解説されていた研究・活動の「位置付け、理屈付け、正当性」にあたる部分だと思いました。
確かに学会発表などを聞いて、「××の課題に対して、◯◯ができました」というだけで、「何がしたくてその課題を解決しようとしたのか」「課題を解決できたから何をしたいのか」という視点が抜けている発表を聞くことがあります。
自分に近い分野だったら、こういうことできるな、ああいうことできるなとひらめきにつながりますが、ずれた分野だと何がしたいのか理解できないことが多いです。
つまり納得できていない状態ですね。
こういった経験があるからこそ全体を描くことの大事さを認識できていたのだと思います。
だからこそとても共感できる部分でした。
技術は見えない資産である
特に共感したことは、技術は「見えない資産」であり、見る努力をしないと見えない。けれども、数字を生み出す源泉となる大事なものという解説のところでした。
経営にとって最も重要な資産との認識がなかった
「経営は数字が全て」と期末成績発表会ではトップがよく語っていた。数字以外はあまり記憶にない。このことはいつも違和感が残った。数字は様々な施策の結果として現れてくるもので、大切であることは間違いない。しかし、その数字を生み出す源泉のほうが大切だ。だから「数字は結果」であって、「経営は数字が全て」ではないのだ。人材の能力やモチベーション、組織能力や風土、技術、ブランドなど、数字をあげるためには「見えざる資産」が重要だ。数字は客観的で、誰の目にも見えるし理解もできる。B/SにもP/Lにも載り、「管理」しやすい。一方で、「見えざる資産」は文字通り、見ない。見ようと努力しないと見えないものだ。
チャランケ物語 富士フイルム変革「敗戦」記 ミドルが仕掛ける企業変革、p98
大学も企業も存続するためにはお金が必要で、「とにかく早く成果が出るもの」が現在求められる傾向が強くなっていると感じます。
研究に携わっている人は、その成果やお金は技術や研究から生み出されることは理解していますが、評価をする側がそれを理解していないからか、技術や研究をとにかくお金や特許数、論文数なんかの目に見える指標でしか評価しません。
ひどい場合だと、自分が理解できないことを棚にあげて、わかりやすく説明できない人が悪いという姿勢さえも見受けられることがあります。
数字という目に見えるものを見て良し悪しを判断することなんて小学生でもできることです。
経営者や評価者は、その人の判断が積み重なって、会社や機関を通して世の中に影響を与える、非常に重要な立場であるはずです。
見えにくいけれど、見なければいけない重要なことを理解した上で判断するからこそ、責任者という立場だし、高いお給料ももらっているのではないでしょうか。
何より、技術や研究という見えない資産は、資源が少ない日本で重要な資産であるはずです。
その資産をいかに貯めるか、運用するかは経営者、評価者に握られていると言っても過言ではありません。
だからこそ、そういう人たちにも技術の重要さを理解してもらうためにこの本の著者の意見が届くといいなと思います。
技術改革の4つの壁
変革が「善戦」で終わり、敗戦という結果であったことについて、4つの壁があると考察されていました。
四重の壁
チャランケ物語 富士フイルム変革「敗戦」記 ミドルが仕掛ける企業変革、p94
・「技術開発のパラダイムの壁」
・「経営観の壁:技術観と人間観」
・「技術の核とドメイン論の落とし穴」
・「社長とナンバー2以下とのパワー差」
この4つの壁についての詳細はぜひ本書を読んで確認してほしいです。
ひっくるめていうと「認識の違い」と「適応力」に集約されると思います。
- 技術の本質を考えて、最適な戦略を考えた結果、「やりたいこと」とずれたことになっていた。
- トップとその下で課題の認識がすれ違っているが、パワーバランスのためすり合わせられない。
- 過去の功績が評価され、権力を持つ立場になった人が、時代が変わっても昔の成功体験に囚われ適応できない。
など、本当にあるあるなことだと思います。
だからこそ、普段から感じる壁であり、なかなか解決できない厄介なところです。
これを変えていくには、上も下もそれぞれが認識して変わっていくしかないのかなと思います。
人間は誰かが変えられるほど単純にはできていません。
自分で気づいて本気で変わろうとした時しか変われない人の方が多いでしょう。
その中で、変わらないと組織が潰れるという状況下で変われないのであれば、そこまでということなのだろうと思います。
適応できずに排除されるのは自然淘汰みたいなものですからね。
問題を認識した上で、自分だけは、自分こそは、自分だけでもまず自身の壁となっている部分を解決できるようにまず努力するしかないのかなと思います。
それができたら、いかに周りを巻き込んでいくことができるかが勝負なのではないでしょうか。
まとめ
以上、「チャランケ物語 富士フイルム変革「敗戦」記 ミドルが仕掛ける企業変革」を読んで学んだことのアウトプットでした。
科学技術を世の中に還元する形にしたいと思うからこそ、
- 技術という見えない資産を守るためにはどうする?
- 組織の上層部に研究開発が理解してもらえないのはなぜ?
という課題と向き合わなければいけません。
その視点を明確にしてくれた良本だったと思います。
この本を読んで特に重要だと感じた、
- 技術の棚卸し
- 事業全体の絵を描く戦略の立て方
- 技術は見えない資産である
- 技術改革の4つの壁
という「技術の掘り下げ方」、「戦略の立て方」、「障壁になる要素」をしっかりと理解した上で、ものづくりに取り組んでいきたいと思います。
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